教育におけるiPadの3つの役割とは？それでは、実際に授業でiPadはどんなふうに活躍しているのだろうか。纓坂学年主任によると、iPadには主に3つの役割があるという。

まずは、「生徒と教師間のネットワーク」という役割だ。

「例えば、『ヒトとサルの違いは何ですか？』という質問を生徒に投げかけます。これに対して、生徒が自分の意見をiPadに入力するのですが、ロイロノート・スクールというアプリを使うと、全生徒の意見を電子ホワイトボードに瞬時に表示できます」

双方向授業のための情報共有機能や、生徒のための資料作成機能などを備えた授業アプリ「ロイロノート・スクール」の画面。こうした教材選びについても、KDDIに協力してもらったという

iPadの導入以前、教員が生徒の意見を知るには、生徒を当てて答えさせるか、配布したプリントに記入させて回収するといった手段しかなかった。前者では限られた生徒の意見しか分からないし、後者では全員の意見を把握するのに時間がかかる。

それがiPad導入後は、「『同じ意見の人が何人もいるね』とか『君の意見は面白いけど、どうして、そう考えたの？』といったように、双方向型の授業が非常にやりやすくなりました」と纓坂学年主任。

教師と生徒、生徒同士が互いの考えを即座にシェアするための道具として役立っているのである。その結果、生徒が以前よりも、積極的に授業に参加するようになったという。

2つめの役割は「作る」だ。「iPadの中には、カメラや録音機能など取材道具として必要な機能が全部入っていますし、プレゼンテーションソフトなどを使えば、編集・制作作業もできます。生徒が自分の考えを表現し、発信する道具としてiPadは最適なのです」

アクティブラーニング（能動的な学習）を重視する同校では、世界平和をテーマに英語で発表を行ったり、世界各国の食事事情を調べて発表したりなど、自分で調査・取材して発表する授業が非常に多い。そのための大事な道具となっているのである。

中学1年生の学年主任である纓坂誠氏。iPadに映っているのは、生徒がiPadで制作した作品だ

そして、3つめに纓坂学年主任が挙げたのは、「世界とつながるネットワーク」としての役割だ。世界中の様々な人とつながるための道具となることへの期待である。同校では中学3年生の夏休みに、原則全員がオーストラリアへ3週間のホームステイに行く。「ホームステイ先の家族や学校の生徒たちと帰国後もチャットしたり。最終的にはそんな使い方もできたら、と考えています」

中学1年生の郷野翔太朗君。iPadを使ったムービー作りに夢中だという

他方、生徒のほうは、iPadについて、どう思っているのか。中学1年生の郷野翔太朗君は、「授業が楽しい」と話す。授業以外でも、帰りの電車で興味あるテーマについて深く調べたり、友達に見せるためのムービーを自宅で作ったり、iPadを存分に活用しているそうだ。

期待通りの成果で、中学2年生にも急遽導入工学院大学附属中学校では、約90名の中学2年生もこの8月からiPadを活用し始めた。実は、これは今年の計画にはなかったこと。1年生で期待通りの効果が出ていることから、急遽、2年生への導入も決めた。

平方校長が21世紀の教育を語った際、用いた言葉の1つに「シンギュラリティ」（技術的特異点）がある。人工知能がヒトの知能を超える日を意味する言葉だ。ある科学者は2045年までにシンギュラリティが到来すると予測している。そうした時代に活躍できる若者を育てるのが、これからの教育の役割だという。

纓坂学年主任は、「高校生の段階になるかもしれませんが、オープンデータやビッグデータを活用して社会課題を解決するようなアプリの開発にも挑戦していきたいです」と今後の目標を掲げる。

21世紀型の教育を受けた子供は、どんな未来を作っていくのか。現在12歳の中学1年生は、2045年には42歳――。社会の中核を担う年齢になっている。