日本をAI市場の第三極へ押し上げる シスコCTOに聞く、AI時代の通信事業者の活路

5Gの経済的失敗が尾を引き、世界的な閉塞感が漂う通信業界。その打開策はAI事業者とのコラボにあると、シスコシステムズ ネットワーキング部門CTOのマイケル・ビーズリー氏は語る。

米シスコシステムズ ネットワーキング部門 バイスプレジデント 兼 CTOのマイケル・ビーズリー(Michael Beesley)氏

米シスコシステムズ ネットワーキング部門 バイスプレジデント 兼 CTOのマイケル・ビーズリー(Michael Beesley)氏

――5Gが成熟期を迎え、通信事業者の収益性に関する議論が盛り上がっています。現状をどう見ていますか。

ビーズリー 世界中の通信事業者と対話することが私の仕事の一部ですが、最大の課題は、ビジネスモデルが行き詰まっていることです。加入者はこれ以上お金を払いたがらず、ネットワーク使用量だけ増え続けている。投資は増え、収益は減る──。これが世界共通の構造的問題です。

5Gはその最たる例です。中国を除くほぼ全ての国で、5Gを展開した通信事業者が損失を被っています。日本の通信事業者も、5Gへ150億ドル程度を投資したと推測していますが、それでもARPUは上昇しない。一方で、加入者が使用する帯域幅は4G時代の2倍になりました。

原因は、アダプティブビットレートにあります。NetflixやYouTube、TikTok等は帯域幅が太くなったことを検知すると、自動的に高解像度コンテンツを配信します。そのため、東京の電車内で4Gユーザーは720P、5Gユーザーは1080Pの動画を受信します。これは通信事業者には収益をもたらさず、単にネットワークリソースを消費するだけに終わっています。

老朽化と人材流出も深刻に

――OTTの台頭以来、長年に渡って議論されていることではあります。

ビーズリー 通信事業者は過去20年、クラウドサービスやビデオ通話といった新たな収益機会を逃し続けてきました。結果として、消費者からは「単にビットを運ぶだけの土管」と見なされるようになり、追加料金を支払う意欲が低下する状況を招いています。

先進国のこうした実情を知った途上国には、5G展開を意図的に遅らせるケースも見られます。

――通信インフラ自体には、問題はありませんか。

ビーズリー 機器の老朽化も大きな課題です。無線機・基地局、パケットコア、トランスポート、ルーター、スイッチまでネットワークを構成する機器の平均使用年数は10~12年に達しています。

この背景にも構造的な問題があります。多くの通信事業者で設備投資のための予算が不足しており、大規模な更新が困難なことが1つ。さらに、ネットワーク運用能力を持つ優秀な人材が、テック企業や金融機関といった他業界に流出しており、運用スキルが弱体化しています。

先日、欧州の大手通信事業者CEOと会議を開いた際、こんな悩みを打ち明けられました。平均使用年数が12年のネットワークノードを20万個抱えているが、政府からは「量子コンピューティングへの耐性を持ち、AIを悪用したサイバー攻撃に対応できるネットワークを早急に構築せよ」と求められていると。しかし、投資余力はなく、人材も不足している。量子コンピューターやAI駆動型攻撃に対抗するには、ソフトウェア更新だけでは不十分で、ハードウェアとソフトウェアを両方刷新しなければなりません。

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