AI時代の今、SRv6に再注目を
――技術的な打開策は。
ビーズリー 通信事業者から今後のネットワーク戦略を相談されたら、私はSRv6(Segment Routing over IPv6)に統一したほうがいいと答えます。
――拡張ヘッダ(SRH)を使って転送経路を制御するルーティング技術ですね。
ビーズリー 通信事業者はこれまで数十年、MPLSやLDP、IS-IS、OSPFなどのレガシープロトコルを積み重ねてきました。それらをSRv6に一本化すれば、5Gと6G、FTTH等の有線ブロードバンド、そしてAIデータセンター間接続(DCI)まで単一プロトコルでサポートできます。中でもDCIは、AI学習用クラスターが1棟に収まらなくなった今、急速に成長している新事業領域です。
さらに、シスコにはIPレイヤーと光伝送レイヤーを融合する「Routed Optical Networking(RON)」技術もあります。コスト削減と容量増加を同時に実現できるもので、Coltテクノロジーサービスはこれを3~4年で展開しました。日本のソフトバンクもこのRONを全国に展開してAll optical networkを構築しました。通信事業者が生き残るためには、光伝送とパケットの組織的分断を打破して、変革のスピードを劇的に上げる必要があります。
――プロトコル/サービスの一本化もレイヤー統合も、インフラのシンプル化に大きな効果がありますね。
ビーズリー SRv6移行は単なる技術更新ではありません。AI時代への備えという意味でも重要です。
これまでのAIサービスはテキストが中心ですが、将来的には動画生成・消費が主流になります。リアルタイム性への要求も高まります。動画ベースのAIサービスは膨大な帯域幅と厳しい遅延要件を必要としますが、SRv6はこれらの高度な要件を満たすネットワーク構築に適しています。
また、全国各地に分散するPOP(接続ポイント)や通信局舎にAIの推論エンジンを分散配置するモデルにおいても、SRv6は効率的なトラフィック制御を可能にします。こうした新たなビジネスモデルを構築するため、そして、AIを悪用したサイバー攻撃など現代のセキュリティ脅威に対処するために、“緊急事態”として取り組むことを勧めます。
分散AIで収益化する2つの方策
――AIは通信事業者に新たな収益機会をもたらしますか。
ビーズリー 課題の話ばかりしてきましたが、AIは大きなチャンスでもあります。迅速に動けば、分散AI推論サービスは新たな収益源になり得ます。
1つめのアプローチは、通信事業者が自ら計算資源、GPUをクラウドサービスとして直接提供するGPU as a Serviceです。そしてもう1つ、OpenAIのような事業者と組んで、全国のPOP/局舎に推論エンジンを分散配置する先述のモデルが考えられます。ユーザーから遠い大型DCにAI処理を集中させるより、低遅延・低コストにサービスを提供できるため、AI事業者にも消費者にも利点があり、通信事業者も収益の一部を得られる可能性がある、三方よしの構図です。
AIサービスが動画中心になり、リアルタイム性が差別化要素となったとき、例えば「大阪から東京へ旅行中に、撮影した動画像を使った映画をChatGPTに作らせて、その場で配信する」といったことが可能になります。膨大な帯域幅と低遅延が要求されるこうしたサービスでは、ネットワークの品質とAI処理のロケーションが競争優位に直結します。
――日本のAI産業の可能性について、どう見ていますか。
ビーズリー 現在、LLMトレーニングを大規模に実施できるのは米中の数社のみです。GPUの価格も高騰しており、エヌビディア一強を打開できるプレイヤーも今は見当たりません。
だからこそ、日本がAI市場の第三極になるべきだと私は強く信じています。日本には資金とシリコン技術があり、官民連携で大規模プロジェクトを推進してきた実績もあります。インドはソフトウェアは得意ですが、シリコン・ハードウェア産業がありません。フルスタックでAI大国と競争できるのは、日本以外にないのです。
10年後、AIはインターネットと同様にミッションクリティカルな技術になります。日本が独自のAIアクセラレーターを持たなければ、エヌビディアか中国メーカーを選ぶしかなくなります。多様性が競争を生み、競争が技術を進化させることを考えれば、日本がAI大国になることは、世界の利益になる。日本の次の一手に期待しています。
[月刊テレコミュニケーション 2026年8月号の記事を再構成]









