AIエージェントが通信事業者を変える ドコモの「5G on AWS」でも活躍

通信インフラの設計・構築からネットワーク運用、サービス提供まで、通信事業者のあらゆる領域でAIエージェントが活躍し始めた。NTTドコモを筆頭に、AWSが共同で推進する取り組みが世界中に広がっている。

レガシーシステムをモダン化

上記のドコモの取り組みは、社会基盤としての通信ネットワークの強靭化・柔軟化を目的としたものだが、他国に目を向けると、通信事業の幅広い領域でAIエージェントの活用が広がっている。BSS(顧客・課金管理等のビジネスサポートシステム)をはじめとするITシステムのモダナイズに取り組んだのがAT&Tだ。

AT&Tは、AWSインフラ/サービス等をオンプレミス環境へ拡張する「AWS Outposts」を自社データセンター内に設置し、それまでVMware環境で運用していたレガシーITシステムをそこに移行した。

その際、AIエージェントを使ってレガシーアプリケーションの移行を支援するサービス「AWS Transform」を活用。AWSへ移行する対象の分析や移行計画の策定、ネットワーク作成といった作業を自動化した。AWSジャパン 通信第一ソリューション部 部長の川崎一青氏によれば、「大規模システム移行の際に、AWSの専門チームが構築した『移行自動化ファクトリー』でインフラ設定やアプリケーション変換プロセスを自動化し、移行期間・コストを当初見積もりから半減することができた」という。

AWS Transformに加え、AI駆動型の自律型開発エージェント「Kiro」がコード生成、リファクタリング(ソースコードの改善)、ドキュメント作成、テストの自動化といった作業を担う。この仕組みを用いたITシステムのモダナイズ、AI駆動型の開発は業種を問わず広がりを見せている。通信事業者は近年、システムの内製化を進めていることもあり、このAI駆動型の開発が定着していく可能性は高い。

川崎氏は、こうしたAI駆動型開発を浸透させることで、通信事業者の投資モデルの転換・再構築を後押ししたいとも話す。「長年使われた結果、属人化して仕様も曖昧なまま“塩漬け”になっているレガシーシステムは少なくない。それを、EoL(サポート終了)で仕方なく更新・移植するのではなく、戦略的にモダンなアーキテクチャへ再設計することができる」。例えば、COBOL等の古いソースコードをAIエージェントが読み取り、仕様を可視化・解析し、モダンな言語/アーキテクチャへ書き換えたり、より効率的なサービスへと再設計する。AIエージェントを活用することで手間とコストを最小限に抑えながら、レガシーシステムをマイクロサービス化し、かつ展開も自動化するといったことが可能になる。

RAN最適化/スライシングも自動化

次の例は、5Gサービスの高度化だ。

エリクソンは2026年3月に、AIエージェントを使ってRAN最適化を行う「Ericsson rApp」をAWS Marketplace経由で提供開始した。rAppは、オープンRANのRIC(RAN Intelligent Controller)上で動作するアプリケーションのことで、AIエージェントがRANパラメータを自律的に調整したり、オペレーターと自然言語でやり取りした内容を設定に反映したりする。

ノキアも同月、業界初のAIエージェント搭載ネットワークスライシングソリューション「Agentic slicing」を発表した。AWS上で動作するAIエージェントがリアルタイムデータを基に判断し、最適なスライシングポリシーを適用するものだ。仏オレンジとUAEのduがパイロット導入を開始している。

このように通信事業の中核領域でAI活用が加速しているのには理由がある。恒松氏は、次の2つを挙げる。

第1は、不安定なサプライチェーンを起因とするITリソースのコスト上昇だ。関税問題や電力コスト、メモリ価格、地政学的問題が複雑に絡み合い、構造的なコスト上昇圧力を生んでいる。

第2は、非連続なテクノロジー進化への対応の難しさだ。

GPUの性能はムーアの法則を超えるペースで向上しており、「4年間で11倍の進化を遂げたケースもある」と同氏。通常は6年程度とされる通信事業者のシステム投資回収サイクルを技術革新のスピードが上回ってしまっており、通信事業者も「投資タイミングとリスクマネジメントの難しさに直面している」。

この課題に対し、アマゾンはAWSを含めた圧倒的な投資規模で応じる姿勢を打ち出している。

2025年の1000億ドルに続き、今年は2000億ドルの設備投資を宣言。AWS TrainiumやAWS Gravitonといった自社製チップの開発による電力効率の向上も推進している。例えば、AWS Trainium3は、全世代比で4.4倍の性能と4倍のエネルギー効率を実現し、アンソロピックがClaudeの学習と推論に活用している。

通信事業者はこのAWSのインフラとサービスを利用することで、自らAIインフラを所有することなく、常に最新技術へアクセスできる。AIインフラの安定供給と価格低減を通じて、通信事業者のコスト構造改善に貢献することを目指すという。

B2C/B2Bサービスにも活用

ここまで、通信ネットワークをはじめとするインフラ構築・運用の自律化やITシステムのモダナイズの分野でAIエージェントが活躍していることを述べてきたが、その活用領域は、通信事業者が顧客へ提供するサービスやソリューション開発の領域にも及ぶ(図表2)。

図表2 AIエージェントの導入があらゆる分野で具体化図表2 AIエージェントの導入があらゆる分野で具体化

先に述べたコーディングエージェントの活用は、コンシューマー向けビジネスの競争力強化においても役立つ。「サービス開発のスピードを抜本的に高め、さらにサービス運用そのものをAIで自律化する」(川崎氏)。他でもないAWS自身が社内でコーディングエージェントを活用しており、そこで得たノウハウを通信事業者へ提供。世界的なエンジニア人材の枯渇への対抗策となる。

B2B領域での収益創出・確保においても、「通信+デジタル」への転換を図るうえでAIエージェントは心強い味方となる。例えば、産業DXを支援するソリューションにAIエージェントを組み込むことで、企業顧客の人材不足やビジネスアジリティの向上といった課題解決を図る。

一例が、セールスフォースが開発した「Agentic ICT-in-a-Box」だ。

通信事業者が法人顧客にICTサービスを提供する際に、顧客要件に合わせたカスタマイズを省力で素早く行うためのソリューションである。同社のAIエージェントプラットフォーム「Salesforce Agentforce」と、Amazon Bedrockを活用した4種類のAIエージェントが、カスタマイズの見積り提案からデプロイ、運用までを自動化する。

AWSとパートナー企業の連携により、通信事業者の幅広い業務・ビジネスに、AIエージェントが急速に浸透している。

月刊テレコミュニケーション 2026年5月号の記事を再構成]

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