総務省 移動通信課長 五十嵐氏「自動車・鉄道・電力伝送など、新たな電波利用へ制度整備」

陸上の移動無線通信全般を所管する総務省の移動通信課——。自動車のリモートキーレスエントリ等の国際協調、鉄道ワンマン運転を支えるミリ波無線、MCA跡地の800MHz帯・900MHz帯の活用、ワイヤレス電力伝送の屋外利用など、携帯電話に限らず、多方面で制度整備が相次いでいる。その最前線を五十嵐移動通信課長に聞いた。

2つのプラチナバンド

——デジタルMCAおよび高度MCAの終了に伴って跡地が生じる2つのプラチナバンド、800MHz帯(845〜860MHz)および900MHz帯(895〜900MHz/928〜940MHz/940〜945MHz)についても、情報通信審議会での検討を経て、利用システムが決定しました。

五十嵐 800MHz帯については、「広帯域小電力無線システム」と「3次元測位システム」で利用します。今年3月に電波監理審議会から答申を得ており、官報公示を経て運用可能となります。

——広帯域小電力無線システムとは、具体的にはIEEE 802.11ah(Wi-Fi HaLow)のことですね。

五十嵐 Wi-Fi HaLowを念頭に共用検討等を行ってきたのは事実ですが、技術基準に収まるものであれば、他のシステムでも利用可能です。

——3次元測位システムは、GPSと異なり地上から電波を送信するため屋内測位も可能で、気圧分析との組み合わせにより垂直方向の測位もできるとのことですが。

五十嵐 米国では、すでに活用されていると聞いています。送信機の設置場所は携帯電話基地局と同様の場所が想定されているため、提案をした企業に限らず、携帯電話事業者などがサービス提供を検討する可能性もあるのではないでしょうか。

——900MHz帯について、技術分科会の報告書では「(新)高度MCA」および「特定ラジオマイク」としての活用が適当とされました。跡地の一部は、引き続きMCAに用いられることになりますが、提案者は、既存のMCAのインフラと携帯電話の基地局網を活用すると提案時に説明しています。

五十嵐 まだ情報通信審議会総会での審議が残っておりますので、技術分科会までの議論をご紹介します。2003年に始まったデジタルMCAは第2世代携帯電話相当の技術を利用しており、その後継としてLTEの技術を用いた高度MCA(MCAアドバンス)が2021年に始まりました。しかし、端末が高価などの理由から利用者が増えず、運営元は2027年3月末でのサービス終了を発表しています。(新)高度MCAは、この高度MCAの継続を図るものですが、一般に流通するスマートフォンをそのまま利用可能と謳う点が大きな特徴の1つです。

——もう1つの特定ラジオマイクは、音楽ライブや舞台、放送現場など、プロオーディオ分野での活用が想定されています。

五十嵐 ラジオマイクについては、この900MHz帯の話とは別に、WMAS(Wireless Multichannel Audio Systems)という新規格の技術基準の策定にも取り組んでいきたいと考えています。現在のシステムと周波数幅では、40〜50本のワイヤレスマイクの同時利用は難しいそうです。しかし、WMASは、携帯電話の基礎技術であるOFDMを採用することで周波数利用効率を高めており、プロオーディオに求められる高音質・低遅延を確保しながら、より多人数での同時利用が可能とされています。

——周波数の追加に加えて、テクノロジーの進化への対応も同時並行で進んでいるのですね。

五十嵐 「920MHz帯空間伝送型ワイヤレス電力伝送(WPT)システム」に関しても2つの改定を行いました。

1つは屋外利用の解禁です。WPTは2022年、920MHz/2.4GHz/5.7GHzの3つの周波数で制度化されましたが、いずれも屋内限定でした。制度化以降、920MHz帯を中心に普及が進んできましたが、物流倉庫のトラックヤードのような一部が開放された半屋内では利用できず、「それでは魅力が半減する」といった声が多くありました。

電波は、建物の壁1枚で10分の1に減衰すると仮定して計算します。同じ920MHz帯を使うRFIDに関しては屋外利用が以前から認められていますが、WPTは電波が送信され続けるため、他に与える影響が大きいおそれがあります。そのため最初は屋内限定でスタートしました。しかし、屋外でもそれほど問題にならないことが分かったことから、今回、屋内と同条件での屋外利用を可能にしました。

もう1つは、小電力での免許不要化です。250mW以下であれば、特定小電力局として、免許なしで導入可能になります。これにより、小型家電製品などへの給電も、920MHz帯WPTで便利にできるようになるかもしれません。

今年3月に電波監理審議会から答申を得ており、まもなく屋外や免許不要で利用できるようになります。

HAPS、衛星、強靱化

——携帯電話関連では、注目の電波オークション以外にどういった新しい動きがありますか。

五十嵐 まずは、成層圏を飛行する無人飛行機等に携帯電話基地局の機能を搭載したHAPS(高高度プラットフォーム)です。今年2月に電波監理審議会から答申を受け、必要な制度整備が完了し、今年度からのサービス開始が予定されています。HAPSは国際会議などで日本が議論を主導してきたものであり、関係者のご尽力に敬意を払うとともに、無事に技術基準策定までこぎ着けることができ、私どもとしてもほっとしています。

——HAPSや衛星通信といった非地上系ネットワーク(NTN)の役割は今後ますます重要になりますね。

五十嵐 衛星を活用したブロードバンドサービスが登場したことを受けて、海上等における衛星通信技術に関する実証事業にも知床において取り組んでいます。

多くの人命が失われた2022年の知床遊覧船沈没事故では、船上で携帯電話がつながらなかったことが報じられました。そこで、私どもとしても、同地域で携帯電話がつながるよう基地局の整備事業に取り組んできましたが、同時に自然環境にも最大限配慮する必要があります。そうした中、低軌道周回衛星を使った高速通信サービスが登場し、地球上のどこでもインターネットにつながるようになりました。特に緊急時の通信確保は最優先課題です。こうした新しい技術をタイムリーに取り入れていくことも重要だと考え、実証に取り組んでいます。

——日本は自然災害が多いだけに、平時からの備えが問われますね。

五十嵐 通信は国民の安心・安全を支える重要な社会インフラとなっています。そのため、携帯電話基地局の強靱化対策事業も進めています。具体的には、災害発生時の停電や伝送路断による基地局の停波を回避するための大容量蓄電池やソーラーパネルの設置のほか衛星回線、光ファイバ2ルート化など通信回線冗長化を目的とした設備の整備を補助します。南海トラフ巨大地震および首都直下地震に関し、緊急対策区域等に指定された自治体内の基地局を中心に強靱化していきます。

五十嵐大和(いがらし・ひろかず)氏

1974年茨城県生まれ。1999年東京工業大学(現東京科学大学)大学院修了、同年に郵政省(現総務省)入省。新世代移動通信システム推進室長、東北大学電気通信研究所特任教授、電気通信技術システム課長などを経て、2025年7月より現職

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