<連載>地政学リスク時代の通信戦略宇宙から日本を守る “自前”の衛星通信インフラの整備が進む

安全保障において、宇宙は重要なフィールドとなっている。地政学リスクが高まるなか、他国インフラへの依存を前提としない、“自前”の宇宙インフラを強化する取り組みが日本で進んでいる。

有事に備えるなりすまし対策

GNSS(全球測位衛星システム)も、国家の基盤インフラの1つだ。位置情報の利用は日常生活のあらゆる場面に浸透しているほか、GNSSに基づく高精度な時刻同期は、通信や放送、金融といった社会インフラを支える基盤技術としても不可欠である。

GNSSは長らく米国のGPSを中核に利用されてきたが、安全保障面からは、測位や時刻同期を他国の単一システムに依存する構造が課題となる。加えて、日本の地理的条件や都市環境を踏まえた安定した測位精度をいかに確保するかも重要な点だ。こうした問題意識の下で、日本政府が整備を進めているのが準天頂衛星システム(QZSS)、通称「みちびき」である。

内閣府でみちびきの運用を担当する宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室長の三上建治氏によれば、みちびきは当初、民生利用を前提とした測位システムとして整備が進められてきた。しかし運用が進む中で、「公共専用信号」が整備され、災害・危機管理といった政府主導の用途にも活用されるようになったという。

内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室長 参事官 三上建治氏

内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室長 参事官 三上建治氏

GNSSを巡る脅威には、妨害電波を発する「ジャミング」や、なりすまし信号を送信する「スプーフィング」がある。信号を意図的に攪乱するこれらの手法は、安全保障上の深刻なリスクだ。紛争地域ではドローンに対するジャミングが常態化しており、スプーフィングによる誤誘導は航空機などの運用にも重大な影響を及ぼす。

ジャミングへの対策としては、信号強度の向上や、ビームフォーミングによる指向性の強化などが挙げられる。一方、スプーフィング対策としてみちびきに実装されているのが、測位信号の認証機能だ。測位信号に含まれる航法メッセージの真正性を電子署名によって検証する仕組みで、みちびきでは2024年度から運用が始まった(図表2)。この認証機能は、みちびきに加え、GPSや欧州のGalileoにも対応。三上氏は、将来的には量子暗号技術をスプーフィング対策に活用する可能性も視野に入れていると話す。

図表2 「みちびき」の信号認証サービス概要

図表2 「みちびき」の信号認証サービス概要

現在、みちびきは5機体制で運用されている。日本全土をみちびきのみでカバーするためには7機体制が必要だが、2025年12月のH3ロケットの打ち上げが失敗したことを受け、計画の再調整を迫られている。それでも三上氏は「5機体制でもできることは多い」と強調する。地政学的リスクが高まる中、現行体制で運用ノウハウを積み重ねつつ、7機体制の早期実現が目指される。

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