6G時代のCPSを支える「時空間同期」 無線・分散型へ進化する次世代の時刻同期

産業・社会インフラを下支えしている時刻同期技術が、6G時代へ向けて進化する。モバイルデバイスが高精度な時刻情報を持ち、互いの位置関係も把握できるようにする「時空間同期」の開発が進んでいる。

無線通信で時刻合わせ

2つめのWi-Wi(Wireless two-way interferometry)は、無線通信による双方向時刻同期技術としてNICTが十年にわたり研究開発を続けてきたものだ。

キャリア波(搬送波)の位相(フェーズ)を利用して、デバイス間で双方向に時刻を比較し、互いの位置関係を計測する技術である。NICTは920MHz帯を使う通信方式でモジュールを試作しているが「Wi-Fiでもできることは実証済み。通信帯域も通信方式も選ばない」(志賀氏)。特定の通信方式に依存せず、様々な無線通信技術に適用できるという。

井戸氏は時空間同期の仕組みをサッカーチームに例えて、CLIFSを「選手の技術」、Wi-Wiを「選手間の連携」と表現する。CLIFSで各デバイスが正確な時刻を持ち(選手の技術の向上)、それをWi-Wiで比較し調整する(連携)ことで、例えば工場のような一定の空間内でデバイス同士の高精度な時刻同期と位置情報の共有が可能になる。

これを「監督」として指揮するのが、3つめのクラスタークロックだ。各デバイスが持つ“比較的正確”な時刻を位置情報とともに共有し、修正する役割を担う。現在の日本標準時は18台のセシウム原子時計の合成原子時を基に生成されているが、「それと同じようなアルゴリズムをローカルに適用することで、例えば工場内におけるロバストな時計を作る」(志賀氏)。

これまでの時刻同期は中央集権的な管理方式だが、時空間同期はクラスタークロックによって「あるコミュニティの中で、正確にタイミングを合わせられる時刻を持つ」ことが目的だ。ロボットの協調作業やドローン群の編隊飛行のようなユースケースでは、そのアプリケーションの範囲内で正確な時刻と位置情報が共有されていれば十分だからだ。

NICTは日本標準時を決定・維持する機関であり、この分散型アプローチはある種の自己否定にもなる、だが、「分散型への移行は、時代が求めている流れでもある」と井戸氏。もちろん、複数のコミュニティ間でコミュニケーションを取るために、ローカル環境の時刻を世界協定時や日本標準時と同期する技術も併用する。

ビッグデータの価値を引き出す

このように、時空間同期はGNSSに頼らない堅牢かつ柔軟な時刻同期・測位インフラを実現することが最大の目的だが、同時に「ビッグデータの真の価値を引き出す」ことにも貢献すると原氏は話す。ビッグデータはデジタルツインやCPS、そしてAIを活用するための“燃料”と言うべきものだが「時間軸を持たなければ、どれほど集積しても意味のある分析はできない。タイムスタンプをつけることで初めて価値あるものになる」からだ。

また、無線化という要素だけを取り上げても、今後エッジコンピューティングの発展とともに、クルマやドローンといった移動体をデジタルツインと接続し、協調・連携させるための基盤技術として重要性が高まることは確実だ。 そんな6G時代を見据えてNICTは、標準化活動にも注力している。6Gネットワークに時空間同期を実装することを目指して活動を続けていくという。

ただし、世界中の通信事業者が5Gのマネタイズに注力している状況であり、6Gの初期段階から多くの新機能を実装することには消極的だ。そのため、ターゲットは「6GのDay2(後半)」と井戸氏。まずはデータセンター内での無線時刻同期といった限定的な環境でWi-Wi等の要素技術の実績作りから進めていく考えだ。データセンター内には時刻同期のための多数の配線があり、それを無線化できるWi-Wiへの関心は高いという。

また、量子技術との関連でもニーズを開拓できる可能性がある。「量子暗号や量子状態のやり取りには、離れた地点間で同一のクロックを持つことが不可欠」と井戸氏。ここでも時空間同期の要素技術を適用できる可能性がある。

NICTでは、複数企業へのWi-Wiのラインセンスアウトや、Wi-Wiを利用した時空間同期の実装支援を事業とするスタートアップの設立などで社会実装を推進にも取り組んでいる。デジタルツインに「時間」という新たな次元を加えるための挑戦は続く。

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