ミッションクリティカルIoTで加速
このように、データ主権と高い安定性を求めてプライベート5Gを採用する動きは、ミッションクリティカル性の高いネットワークを必要とする領域で加速している。
日立製作所の米国子会社であるグローバルロジックは今年、米国メリーランド州に開設した日立レールの工場にプライベート5Gを導入した。北米顧客向けの鉄道車両を製造するこの新工場での品質管理の自動化や作業員の安全確保が目的だ。その中心にいるのが、4足歩行が可能な犬型ロボットである。
車両の下など危険を伴う場所の画像を撮影し、AI解析によって傷などを検出。作業員の安全性が確保されるほか、人による検査精度の差をなくして品質を均一化できる利点もある。そのほか、故障予測のためのリアルタイムデータ収集や、資材を搬送する自動搬送車両の制御等にもプライベート5Gを活用する。
ジャガー・ランドローバー(JLR)も今年、英国ソリハル工場にプライベート5Gを導入した。設備の予防保全を行うためにリアルタイムデータを収集する安定的な基盤として機能している。

IoTデータ収集にプライベート5Gを活用するジャガー・ランドローバー(JLR)ソリハル工場(画像提供:エリクソン、JLR)
プライベート5Gという信頼性の高い土台のうえで大量のリアルタイムデータを収集しようとする動きは、製造業に留まらない。「これまではデータを収集するためのコネクティビティだけがあって、活用法を模索していたが、今はAIが多くのデータを求めている」と鹿島氏。製造業以外の例として挙げたのが、ヨットレース「SailGP」だ。
レースで使用する高速艇「F50」にはライブストリーミングカメラのほか多数のIoTセンサーとエッジルーターが取り付けられており、速度や加速度、風向きなど多様なデータをリアルタイムに中央クラウドへ送る。競技エリアは海上の広大な範囲に及び、F50の速度は外洋で時速100kmにも達するため、プライベート5Gと公衆5Gを組み合わせて競技エリアをカバーしている。1日ごとに処理されるデータポイントは530億にものぼり、その分析結果はレース運営、チームの戦略・戦術分析、審判員のレースプロトコル裁定などに使われている。
SailGPは当初、エリクソンとT-Mobileの協力のもと、米国でのイベントでプライベート5Gをテスト。その結果、2025年シーズンに行われる世界中のレースで使われることとなった。今年7月に英国ポーツマスで開催されたSailGPでは、英BTが公衆5G上で提供するネットワークスライスをプライベート5Gと組み合わせて通信容量を増強。F50からのライブ映像やIoTデータの伝送のほか、メディアプロダクション分野でエリクソンと連携するソニーも加わり、イベントを撮影するカメラ画像や放送用ビデオの伝送を5G経由で行った。
鹿島氏によれば、「こうした事例はサッカー等の他の競技、イベントにも応用されており、広がり始めている」。

英国ポーツマスで7月に開催されたEmirates Great Britain Sail Grand Prixの様子(画像提供:エリクソン、SailGP)
通信過疎エリアにもAIを
Wi-Fiを大きく凌ぐ数kmの伝送能力を持つローカル5Gは今後、公衆網が未整備な通信過疎地にフィジカルAIを適用するための有力な手段としても注目が高まりそうだ。港湾や鉱山で、重機や車両を接続したいというニーズは根強い。
2025年4月には、米金鉱大手のNewmontがオーストラリア最大の地下鉱山であるカディア鉱山にエリクソンのプライベート5Gを採用した。目的はブルドーザー車両群の遠隔操作だ。
従来はWi-Fiを利用していたが、100m以下の距離で2台を接続するのも難しかったという。プライベート5G基地局を導入し、Massive MIMO技術を利用することで、1台の無線機で幅2.5kmにおよぶ尾鉱(精鉱後に残る不要物)処理エリアをカバーできるようになった。最大175Mbpsの上り通信速度によって最大12台のブルドーザーに対応可能となり、従業員の安全確保や機械の稼働効率改善に貢献している。
デジタルツインによる予防保全や品質検査の自動化、IoTデータの解析、メディアプロダクション、重機の遠隔操作と、ここまで紹介したユースケースはいずれも横展開が可能であり、「多くの企業・組織に共通するニーズに応えるソリューションから開発・展開している」と鹿島氏。AIとプライベート5Gの組み合わせによってデータ収集と活用の好循環が生まれることで、用途開拓はさらに進むと期待される。









