データセンター構想に融合
もう1つ、ソフトバンクが取り組むのが、量子・古典コンピューターのハイブリッドプラットフォームの開発だ。同社が進めるデータセンター構想に量子技術を統合し、既存CPU/GPUに比べて量子計算が能力を活かせる領域に使うことを想定している。
量子コンピューターのベンダーは2030年頃を具体的なアプリケーションの実用化時期としているが、古典計算をすべて代替できるわけではない。「例えば量子機械学習は、既存のGPU性能が非常に高いので量子コンピューターの優位性は明確ではない。組み合わせ最適化も、古典的なシミュレーテッドアニーリングの性能が高く、量子コンピューターがこれを凌駕するタイミングを見定めるのが難しい」(小宮山氏)
現実的には古典コンピューターとの組み合わせが有効であり、ユーザーは計算方法を知らないままバックグラウンドで量子計算が使われているという可能性も大いにある。
具体的な取り組みとしては、理化学研究所(理研)と、量子コンピューターとスパコンの「富岳」を連携させてその有用性を検証し、具体的なアルゴリズムを開発するプロジェクトに参画している。
既存光網で量子通信を実証
将来の展望として、量子コンピューター間や量子デバイスとの量子状態をやり取りするためには、量子ネットワークが求められる。一方、量子通信のためにまったく新しい通信インフラを構築・運用するにはコストが掛かるため、ソフトバンクは、既存ネットワーク資産の量子通信への活用可能性を見極めるためのトライアルも進めている。
2023年に、量子中継器の開発等に取り組むLQUOMと共同で、都心部に敷設された光ファイバーを使った量子もつれを担う光子の伝送実験を実施。総距離約32kmの量子通信実験に成功した。広範囲に敷設されている既存の光ファイバーネットワークを量子通信に活用できれば、量子ネットワークの普及を大きく後押しする。
ソフトバンクは将来的に、既存インターネットと量子インターネットを融合したハイブリッドネットワークの実用化を目指している。LQUOMとの共同実証は、量子通信が光ファイバーを占有する形で行ったが、今後は、古典通信との多重化の可能性も検証する。
ソフトバンクが率先して使う
このように、量子技術を活用したビジネスの可能性を追求するのと並行して、通信インフラの最適化や高度化に量子コンピューターを活用するための取り組みも始めている。
2025年7月に、組み合わせ最適化問題に特化した専用計算機であるイジングマシンを用いて、無線基地局の設定を最適化する実証実験を東京都内で実施した。その結果、キャリアアグリゲーション(CA)を使った5G通信で、下り通信速度を約10%、データ通信容量を最大50%向上させることに成功した。

実証実験に使用したLQUOM製「共振器内蔵型量子光源 LQPS-100」
実際の量子コンピューターの性能は実用レベルに達していないため、この実証では、イジングモデルという量子力学のモデルで定式化し、古典の手法で最適化を行っている。
小宮山氏によれば、「ハードウェアはCPUベースのものを使っているが、量子コンピューターのハードウェア性能が追いついてくれば、今回実施した内容をそのまま量子コンピューターに移植できる」という。古典コンピューターでも量子コンピューターでも活用できるモデルを採用することで、量子技術の進展に応じて柔軟に移行できる仕組みを整えている。
ネットワーク最適化問題は非常に幅広く、CAの組み合わせ最適化以外にも、通信性能・品質を最大化するためのパラメーターの組み合わせ探索など多数存在する。
「我々が率先して、自社の課題解決に量子コンピューターを使うことで、お客様からの信頼も増す。ここは両面で進めていきたい」と同氏。量子技術が「リアルな事業に貢献できる」と示すことで、その価値を顧客企業に伝えていく。










