<特集>量子通信と量子コンピューター光で100万量子ビットに挑む 通信技術が量子コンピューターを進化させる!?

実用的な量子コンピューターに必要な「100万量子ビット」。その達成に、光通信技術が大きな役割を果たせるという。東大やNTT、理研らが挑む「光量子コンピューター」だ。日本発で量子計算の実用化に挑む。

2027年に性能100倍を目指す

こうした特徴を持つ光量子コンピューターを構成するデバイス開発や、量子ビット数を増やす仕組みには、光通信で使われる素子やパルス検出、信号処理、広帯域化といった技術がそのまま活用できる。NTT未来ねっと研究所 フロンティアコミュニケーション研究部 グループリーダの白井大介氏は、「将来的には波長多重や空間多重といった、通信で使われている多重化技術でさらに情報を増やしていける可能性がある。量子ビット数を増やしていくことを考えると、最終的には(他方式と比べて)光方式が一番伸びるのではないか」と話す。

NTT未来ねっと研究所 フロンティアコミュニケーション研究部 グループリーダ 白井大介氏

NTT未来ねっと研究所 フロンティアコミュニケーション研究部 グループリーダ 白井大介氏

OptQCの高瀬氏も、「光通信技術の研究開発は、超電導型などの量子コンピューター単体の研究開発よりもはるかに規模が大きい。その技術的進歩を活用できる」とその優位性を強調する。

実用化への歩みも進んでいる。

理化学研究所(理研)やNTT、東大、Fixstars Amplifyは共同で、2024年11月に光量子コンピューターの開発に成功した。この光方式は、理研の量子コンピュータ研究センター光量子計算研究チームでリーダーを務める東大の古澤明教授が2000年頃に実証した技術を起点としている。上記の開発でも東大・古澤研究室が中心的な役割を果たしており、OptQCは、同研究室の出身者らが2024年9月に設立した。

理研、NTTらが開発した光量子コンピューターの実機(左)。平面サイズは4.2×1.5m。クラウドに接続されており、共同研究契約を締結したユーザーが利用できる(提供:理化学研究所)

理研、NTTらが開発した光量子コンピューターの実機。平面サイズは4.2×1.5m。クラウドに接続されており、共同研究契約を締結したユーザーが利用できる(提供:理化学研究所)

NTT先端集積デバイス研究所が作製した光パラメトリック増幅器(提供:理化学研究所)

NTT先端集積デバイス研究所が作製した光パラメトリック増幅器(提供:理化学研究所)

NTTは主に量子光源デバイスの開発を担当。「スクイーズド光」と呼ばれる、光の持つ量子ゆらぎを圧縮して小さくした特殊な光を生成する光源デバイスで、連続的に生成されるこのスクイーズド光を時間的に区切って光パルスとして扱う。NTTでは、システムアーキテクチャやソフトウェアの分野も含めて、光量子コンピューターの開発、高性能化を進めていく方針だ。

一方、高瀬氏らOptQCのメンバーは光量子コンピューター全体の設計や構築を担当。現在、それと同等のスペックを備えつつ、「商品として構築・メンテナンスしやすい商用機を開発中だ」。2026年春に「マシン1」としてクラウドで企業向けに有償で公開する予定で、超伝導方式の富士通機、中性原子方式の米QuEra機とともに産業技術総合研究所のG-QuAT(量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター)に設置する。そして2027年には、計算能力を100倍向上させたマシン2を完成させる計画だ。

この「100倍」の達成方法についても、その道筋はすでに見えていると、ワリット氏は話す。「光通信でいうと、帯域幅を100倍にすることに相当する。現在の帯域幅は約100MHzだが、これを拡大するために量子コンピューターの回路や光源、量子測定といった様々な部分を高速化する。東大では部分的に100倍の高速化を実現しており、これをシステム化することで、密度100倍を目指す」。この広帯域化にももちろん、光通信技術を活用していく。

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