5Gから利用可能になったミリ波(国内では28GHz帯が割当)は、無線通信のさらなる大容量化が必要になる6Gで本格的に活用されることが見込まれている。また、さらに高い周波数帯であるサブテラヘルツ帯(100GHz以上)の移動体通信への適用も検討されている。
この高周波数帯は電波の直進性が高く、遮蔽物に弱いのが難点だ。その対策として有力視されている技術の1つが「分散MIMO」である。NTTアクセスサービスシステム研究所 無線エントランスプロジェクト 研究主任の新井拓人氏は、「高周波数帯を使うには見通しを確保することが重要であり、分散アンテナを使ってカバーするシステムが有効だ」と説明した。
NTTアクセスサービスシステム研究所 無線エントランスプロジェクト 研究主任の新井拓人氏
分散MIMOとは下図表のように、複数のアンテナを配置してエリアをカバーすることで多方向から見通しを確保するシステムだ。アンテナ数を増やし、複数端末へ同時伝送するマルチユーザー伝送によって、「通信を大容量化できるポテンシャルもある」(同氏)。
分散アンテナを使うメリット
分散MIMO実用化へ3つの課題
新井氏によれば、この高周波数帯分散MIMOシステムを実用化するに当たっては、3つの技術的な課題があるという。
高周波数分散アンテナの技術的課題
1つは、分散アンテナを経済的に展開すること。展開コストを削減するため技術として、基地局と分散アンテナを無線で中継する技術や、無線信号を光ファイバーで伝送するアナログRoF(Radio-over-Fiber)などが検討されている。
2つめが、高速移動する端末とつながり続けることだ。分散MIMOは、端末ごとに最適なアンテナとビームを選んで接続するシステムだが、端末が移動するのに合わせてそれらを切り替える必要がある。高速移動環境において、この分散伝搬路を制御する技術が不可欠だ。
3つめは、分散協調MIMO技術の確立だ。多数のアンテナが協調して多数の端末へ同時伝送することで、さらなる大容量マルチユーザー伝送を実現する。
このうち2つめの「分散伝搬路制御技術」について、NTTとNTTドコモ、NECが先ごろ、高速移動環境における実証実験に成功した。高速走行中にアンテナが切り替わったり、遮蔽物の影に入って電波が遮られたりしても通信品質の劣化を最小限に抑える技術を開発。新井氏はそのユースケースとして、多くのユーザーが同時に移動する電車やバスへ大容量通信を提供するほか、周辺車両や道路から大容量センシングデータを収集することで「自動運転にも使える」と話した。