ユースケースに応じて性能や品質が異なる「差別化されたコネクティビティ(接続性)」を提供することで新たな収益を獲得する──。
モバイル通信事業者(MNO)が目指すこのシナリオを実現するには、モバイルコアまで完全に5G化した5G SA(Stand Alone)が前提となる。5Gインフラ上で、異なる要件を満たす複数の仮想ネットワークを生成・提供するネットワークスライシングや、5Gネットワーク機能を公開し、アプリケーション側から利用可能にするNetwork Exposure Function(NEF)といった機能は5Gコアで利用可能になるからだ。
世界中の多くのMNOがEPC(4Gのモバイルコア)と5G無線を組み合わせた5G NSA(Non-Stand Alone)でスタートしたことは迅速な5G展開に寄与したが、反面、4Gとの差別化に苦しむことになった。だが、5G SAの展開によってようやく、その状況が打開されつつある。
FWAに見える新モデルの萌芽
新収益の獲得という観点で、最も先行しているユースケースの1つがFWA(固定無線アクセス)だ。エリクソンの調査によれば、世界のMNOの79%がFWAを提供しており(図表1)、その過半数(131社、54%)が5GでFWAサービスを提供している。
図表1 グローバル通信事業者によるFWAの導入
FWAはMNOに新規顧客をもたらすと同時に、通信量以外の属性と組み合わせた新たなビジネスモデルを作る入口にもなり得る。現在、世界中で通信速度ベースの5G FWAが増えている。
モバイル通信サービスは現状、通信容量ベース(月間GB数制限)の料金プランが主流だ。MNOが5Gで目指すのは、この状況を打開すること。通信速度や遅延性能の差、SLAの有無といった性能・機能が異なる通信サービスを提供することで収益増に結びつけたい。
このビジネスモデルが先行しているのがFWAだ。
FWAを提供するMNOのうち43%が、通信速度ベースの料金プランを提供(エリクソン調査)。1年前の30%から大きく伸びた。
FWAが代替する固定ブロードバンドサービスは、もともと通信速度ベースの料金プランが一般的なため、FWAでもそれが受け入れられやすい。しかも、モバイルユーザーは常に通信環境が変化するためスループットの変動が大きいが、常に同じ場所で使われるFWAなら品質も保証しやすい。
このFWAでビジネルモデルを多様化できれば、さらに、ゲーム向けや企業向けの領域で、遅延性能やSLAを保証するFWAサービスを提供できる可能性も広がる。将来的にモバイルサービスでこのモデルを展開するための準備にもなる。
現在はベストエフォート型が大半だが、今後は帯域幅や遅延を保証するFWA用ネットワークスライスを提供ことで“プレミアム料金”を得るといった形態が増えてくるはずだ。コンシューマー向けでは、2021年からいち早くSAを展開したフィンランドのElisaやスウェーデンのTelia、5G SAで5Gサービスを開始したインドのJioが帯域保証型のFWA用スライスを商用化している。豪TelstraはB2Bで商用間近の状況にある。