SPECIAL TOPIC世界初・ジッターレスローカル5Gで工場の“完全無人化”をたぐり寄せる

マグナ・ワイヤレスが親会社のエイビットから5G事業を移管されて1年以上が経ち、製品開発に加え、営業展開を本格化させている。ローカル5Gシステムは高い、無線でのTSN(Time-Sensitive Networking)はまだ先の話──そんな“常識”を覆し、検証機「AU-700シリーズ」や、5G半導体チップを通じて工場の完全無人化を実現させようとしている。

進化したローカル5G装置「AU-700」 ジッターレス・低遅延を“世界初”実現

完全無人化を行うには、生産設備やロボット同士が正確に協調しなければならない。

デバイス相互の密接な連携を実現させる技術が、TSN(Time-Sensitive Networking)だ。TSNはイーサネットネットワークでリアルタイムな通信をサポートするために策定された規格の総称。時刻同期や帯域予約によって低遅延、低ジッター、高信頼性を実現するもので、FAや鉄道制御など、精密さが強く求められる分野で活用が進んでいる。

TSNの特徴のうち、多数のロボットの協調動作に特に重要になるのが低ジッターだ。通信の揺らぎを抑え、それぞれのロボットにマイクロ秒レベルの正しいタイミングでコマンドを送らなければならない。制御するロボットの数が増え通信量が増加すると、その分ジッターも増え、ある上限を超えるとロボットの動作自体が不可能になってしまうと池田氏は説明する。

有線ネットワークを前提としたTSNの5Gへの適用は、3GPP Release16でサポートされている。だが実際に運用するには、有線と同等の低遅延、低ジッターを担保しなければならない。

そこで、同社の検証機の次期機種「AU-700シリーズ」はローカル5Gにジッターレス通信を実装する挑戦を行っている(図表1)。AU-650シリーズでは、往復の遅延を10ミリ秒まで短縮した。これにジッターレス機能を加えることで、世界で初めてローカル5GにおけるTSNの利用を可能にしようとしているのだ。

図表1 ローカル5G装置「AU-700シリーズ」

図表1 ローカル5G装置「AU-700シリーズ」

カギとなるのが、イーサネットから無線通信へのフレーム変換だ。無線のフレームフォーマットを考慮して有線のフレームを無線に割り当てて変換を行うが、ここに同社の強みがある。この変換ロジックをFPGA(Field Programmable Gate Array)に書き込み、実装している。この実装は自社で半導体チップを開発しているからこそ可能になる。「他社の半導体チップを使用する他のベンダーにはできません」と池田氏は胸を張る。

こうした技術により、AU-700シリーズはジッターを各TSN規格が要求する1マイクロ秒以下に抑えることに成功。5Gの3つの要件の1つ、URLLC(低遅延高信頼通信)にチューニングした無線パラメーターと合わせて高信頼通信を実現し、従来は困難だった制御装置(PLC)の無線化にも対応する。

発売は2025年3月を予定。これまでの機種と同様に、基地局と端末をセットにしており、導入の容易さはそのままだ。

ジッターレス通信をチップで実現 2026年リリースに向け開発進行中

AU-700の発売を来春に控える一方で同社は、AU-700のジッターレス、低遅延機能を持つ半導体チップ「URLLC用 5G半導体チップ」の開発を進めている。2026年にリリースする予定だ。

このチップの開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の委託事業に採択され、同社は情報通信研究機構(NICT)、大阪大学と共同で「超低遅延向けポスト5G半導体チップの研究開発」を推進している。

従来、5G通信向けに開発されてきたチップはスマートフォンでの利用を想定しており、eMBB(高速大容量通信)に特化している。この研究では、それに加えて産業用途で求められる低遅延性能の実現を目的とした。合わせて、画像データなど大容量のデータと、制御データをスライシングして同時に送信する技術も搭載している(図表2)。

図表2 超低遅延向けポスト5G半導体チップの研究開発

図表2 超低遅延向けポスト5G半導体チップの研究開発

このような研究の背景には、半導体チップ開発が直面する課題がある。既存製品ベースのチップ開発はコスト面や回路規模の面で限界に達しつつある。海外ベンダーからライセンスを受けてチップを製造する際、そのライセンス費用は高額なうえ、自由なカスタマイズは行えない。経済安全保障の観点からも、“国産”チップへの期待は高い。

URLLC用 5G半導体チップも、こうした課題を乗り越えようとする取り組みだ。国内自社開発によって必要な機能を盛り込み、かつ製造コストを削減する。そしてジッターレス、低遅延機能をチップ化することでPLCやロボットの各関節などに組み込むことができるようになり、より多くのデバイスによる高度な協調作業を行えることになる。ローカル5Gシステム全体の低廉化にもつながる。

池田氏は、「まずAU-700で無線のTSNを試してみてほしいです」と呼びかける。有線が必須と考えられていたジッターレス通信をローカル5Gでできることが実感できれば、産業現場のさらなるスマート化、完全無人化が近付
く──池田氏はそう確信している。

<お問い合わせ先>
株式会社マグナ・ワイヤレス
TEL:042-621-3300
E-mail:info@magna-wireless.co.jp

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