(第1回はこちら)
――次に、キャリアの新たなビジネスの展望について話していきます。ここはやはり、付加価値の高いサービスを提供するプラットフォームを誰が握るのか、キャリアとOTTのしのぎ合いが焦点になります。
森川 アップルにグーグル、それからフェイスブックにアマゾンと、全部取られてしまった。癪ですよね(笑)。通信キャリアがこれから同じ土俵で勝負することは難しいです。
そこで期待したいのがM2Mです。IOT(Internet of Things)と言ってもいいですが、まだ未開拓のこの領域なら、同じ土俵で戦えるはずです。
まだ確固たるビジネスモデルが見えていないですから、難しい挑戦であることは間違いありません。しかしそこで先んじれば、プラットフォームビジネスにもまだまだチャンスがあると考えています。
――現状だけを見ると、キャリアの収益は好調です。今のところは、スマートフォンの波にうまく乗ったと評価することもできますが。
服部 海外に比べて日本のキャリアのARPUは非常に高い。高止まりしていると言ってもいいでしょう。定額制によってこの高いARPUが維持されているわけですが、今後は競争によって下がっていくでしょうし、誰もがいつまでも現在の水準のまま定額料金を払い続けるかはわかりません。もっと加入者のコスト意識に合った料金がいずれ出てくるはずです。
――従量課金ですか。
服部 そうです。ライトなユーザーに適した料金体系など、プランの多様化への要求は強くなるでしょう。もちろん、通信品質の維持や公平性の確保といった観点からも、料金体系はもっと多様化するべきです。米国では従量制へと流れが変わっていますし、国内でもドコモがXiの料金プランで選択制を導入しました。
森川 M2M向けの低廉なプランも作ってほしいですね。多様性を持たせることが、新しいビジネスを生み出すことにもなります。
通信モジュール用の料金は現在、月額500円程度ですが、もっと下がらないとビジネスにならないというのが現場の声です。そこが、M2Mで最も悩ましい点なのです。
ほんの少しのトラフィックしか発生しない用途も、M2Mではたくさんあります。M2Mで新しい産業を立ち上げるために絶対必要なことです。
鍵握る「QoE」
――キャリアがOTTに対抗していく上で、鍵となるものは何でしょうか。
服部 確かに、OTTと同じ土俵で勝負するのは難しいでしょう。しかし、キャリアとして存在感を発揮できる役割があります。
グーグルのモデル、つまりキャリアは土管の役割に徹し、その上でのサービス提供をOTTが行うというモデルは、いずれ破綻すると考えています。高速大容量なネットワークが定額で使い続けられるという前提が崩れれば成り立たない。サービスの品質が維持できないからです。
キャリアにとって鍵となるのが「QoE(Quality of Experience)」です。単にQoSを保証するだけでなく、ユーザーが体感するサービス品質を高める役割は、ネットワークを持つキャリアにしか果たせません。
岸田 MWC2012では「スマートパイプ」という言葉が強調されました。今の話は、まさにそれと合致します。ユーザーが利用するサービスはOTTが提供するものであっても、その際に、例えばトラフィックシェイプを行ってアクセスを分散し品質を維持したり、あるいはユーザーによって通信品質をコントロールしたりといったきめ細かな制御は、OTTにはできません。キャリアの役割です。
――加入者の情報と、さらに認証・課金プラットフォームも持つキャリアの強みが生かせる部分ですね。
服部 そうです。ただし、そのために解決すべき課題もあります。このような制御を行うには、DPI(Deep Packet Inspection)技術が必須になりますが、通信の秘密に触れる可能性があります。QoEを高めるためだけでなく、トラフィック急増への対処、ネットワークの公平性の担保など、さまざまな課題に対して有効な技術であることは間違いないのですが、法律上の問題によってキャリアやISPはこのDPIに慎重です。
ここは、もっと議論が必要です。トラフィック制御以外の目的への使用は禁止しなければなりませんが、ネットワークの品質を維持するためにはDPIに基づくコントロールが必要だという前提で、総務省や政府も含めて本格的な議論をすぐにも進めるべきです。