SPECIAL TOPICトラフィックと電力消費の激増にどう対応するか? シスコの次世代チップ「Cisco Silicon One」が解決策に

インターネットトラフィックが爆発的な増加を続けるなか、従来のアーキテクチャでは遠からず限界がやってくる。シスコシステムズは、新たなアーキテクチャに基づく次世代チップ「Cisco Silicon One」で、この難問を解決する。

超高性能と低消費電力を両立させるCisco Silicon One

未来のインターネットは、デジタルデバイドの解消に向けてインターネットの経済性を再定義することを目指したものだ。その中で重要な役割を果たすのが、超高性能、超低消費電力を実現する独自チップ「Cisco Silicon One」となる。

通信事業者などサービスプロバイダー向けのキャリアグレードルータを2000年代から提供してきたシスコは、トラフィックの拡大に合わせて、その性能を強化し続けてきた。ただ、その設計思想は長らくスケールアウト型だった。パケットフォワーディング処理を行うNPU(Network Processor Unit)をはじめとする種々のチップと、それらを繋げるファブリックが複雑に繋がり、いつしか巨大なシステムとなっていた。

「これまでの技術を元にしていては、この先のトラフィック量の増加には間に合わないと判断し、データ量に応じてリニアにスケールできるようASICそのものの作りを変えていく必要があると考えました」とシスコ クラウド&サービスプロバイダーアーキテクチャ SPルーティング事業部 プロダクトセールススペシャリストの秋山繁氏は振り返る。

こうして生まれたのが「Cisco Silicon One」だ。2019年に登場した第1世代でも、1つのチップで10Tbpsクラスのトラフィックを処理できたが、その後も進化を続け、5nmプロセスを採用した最新の第4世代では1チップで51.2Tbpsという超高性能を実現している。同社 執行役員 クラウド・サービスプロバイダーアーキテクチャ事業担当の高橋敦氏は「インターネットのトラフィックの伸びをシリコンの性能向上が上回るという、私たちも初めての経験をする状況になっています」と語る。

かつてキャリアグレードルータ1台には最大2,000個あまりのチップが搭載され、ラックを丸ごと埋めていた。だがCisco Silicon Oneを活用すれば、筐体を小型化でき、省スペース化はもちろん、消費電力も削減できる。具体的には、シャーシ型ルータが1RUサイズに収まる形となり、従来に比べ1.6倍の性能を出しながら電力消費は最大約40分の1にまで抑えられる。

約2000個のチップを1つに集約し、超高速処理と消費電力削減を実現するCisco Silicon One

約2,000個のチップを1つに集約し、超高速処理と消費電力削減を実現するCisco Silicon One

さらに「製造や輸送、廃棄に関わる部分のCO2も削減でき、サプライチェーンも含めた環境負担を軽減できることから注目を集めています」と高橋氏は説明する。

ルータとスイッチのいいところ取りで幅広いユースケースに対応

Cisco Silicon Oneはキャリアグレードルータ「Cisco 8000」シリーズなどに搭載され、「ドイツテレコムをはじめ、世界各国の通信事業者のコアネットワークやピアリング領域、さらにはハイパースケーラーと言われる巨大なデータセンターで採用が進んでいます。国内では通信事業者のほか、エンタープライズ、公共のお客様でも採用が始まっています」と同社 クラウド&サービスプロバイダーアーキテクチャ サービスプロバイダーアーキクチャ事業部 事業部長の小久保依美氏は紹介する。

さらに、データセンター向けスイッチの「Nexus」シリーズ、エンタープライズ向けスイッチの「Catalyst」シリーズなどへのCisco Silicon Oneの搭載も進んでいる。

実はCisco Silicon Oneは「One」という言葉が示す通り、ボックス型スイッチからシャーシ型ルータに至るまで、1つのアーキテクチャで幅広い製品に適用できる設計になっている。逆に、同じ筐体でも、スイッチ向けのCisco Silicon Oneを搭載すればスイッチに、拡張メモリを搭載したルータ向けCisco Silicon Oneを搭載すればルータとして機能することができる。

「大量のデータが瞬間的に発生するAI/ML用のネットワークにも対応できます。1つのチップであらゆるユースケースやロールに対応できることが、Cisco Silicon Oneと名付けられたゆえんです」(秋山氏)

それが可能なのは、Cisco Silicon Oneが、スイッチ向けASICとルータ向けASICの「いいところ取り」をしているからだ。

これまで、高速なパケット転送を第一とするスイッチと、大きなルーティングテーブルを参照する必要のあるルータとではアプローチが変わらざるを得ず、ASICも別々に設計されてきた。しかしCisco Silicon Oneは、「スライス」という概念を採用し、複数のスライスから共通のルーティングテーブルにアクセスできるアーキテクチャとなっている。より高い処理性能が必要であれば、スライスを増やして高速化でき、同時にルータに求められる複雑な処理も実現できるアーキテクチャだ。

スイッチとルータのいいところ取りにより、多様なユースケースに対応する

スイッチとルータのいいところ取りにより、多様なユースケースに対応する

また、宛先確認やQoSのチェック、カプセル化といった、パケットが機器に入ってきてから出ていくまでの一連の処理を常に一定のパイプラインで行うのではなく、柔軟に組み換えることができる「ラン・トゥ・コンプリート」というアーキテクチャの採用も多様な処理に対応できる汎用性につながっている。

こうした設計思想に基づくCisco Silicon Oneの第3世代「G100」は、25.6Tbpsの処理能力を持ち、400Gbps、800Gbps接続が求められるデータセンターの需要にも応えるチップだ。

同じ25.6bpsのスループットを実現するにしても、第2世代では6台のハードウェアを組み合わせる必要があったのに対し、G100は1台で可能なうえ、電力消費量は最大77%削減、スペースは最大83%節約でき、年間のCO2排出量は9,000kgも減らせる試算となり、データセンターのOPEX削減、消費電力削減に大きなインパクトをもたらす。

「Cisco Silicon Oneはいわばエンジン」

クラウドの拡大、デジタルトランスフォーメーションやAI/MLの発展を下支えするため、CPUやGPUといった領域では日進月歩で性能向上と消費電力削減のための変革が進んできた。Cisco Silicon Oneは、それと同じように、ネットワークを支えるNPUの分野でも革新が進んでいることを示すものと言える。

シスコは前述の通り、幅広い製品にCisco Silicon Oneを搭載していく方針だが、それはシスコ製品だけには留まらない。「1つの汎用的なアーキテクチャを通して、さらにユースケースを広げていきます」(秋山氏)。サードパーティが提供するOSと組み合わせたり、OEMベンダーのホワイトボックス機器向けにマーチャントシリコンとして提供するといった新たなビジネスモデルも模索するという。

「Cisco Silicon Oneはいわばエンジンであり、ステアリングやサスペンションといった機能を提供するソフトウェアと組み合わせることにより、高速で燃費のいい車が実現できます」と高橋氏は力強く述べた。

<関連情報>
Cisco Silicon One
Cisco Silicon Oneが51.2Tbpsの壁を突破

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