バックスキャッタ通信がIoTを変える RFIDから6Gの夢の通信技術へ

6G時代の有力技術の1つとして期待される、数十年前から身近に使われている通信技術がある。バックスキャッタ通信だ。電池なしで動き続ける“ゼロエネルギーIoT”実現を目指した研究開発が進む。

バックスキャッタ通信という単語を初めて聞いた人も、JR東日本のSuicaは知っているはずだ。買い物カゴをレジ台に置くだけで商品の種類と数、購入金額を瞬時に表示するユニクロのセルフレジを利用したことがある人も多いだろう。バックスキャッタ通信とは、そんなところで日常的に使われている身近な通信技術だ。

ユースケースの代表格は、在庫管理や棚卸しなどでおなじみのRFIDタグ。Suicaの“ピッ”もRFIDの技術を使って情報を読み取っている。

この枯れた通信技術が今、IoTの爆発的普及を後押しするエンジンとして再注目されている。電池レス、充電なしで動き続ける“ゼロエネルギーIoTデバイス”を実現できる可能性があるからだ。

電波は出さずに反射する

RFIDタグやSuicaのカードには電池がない。どころか、電波を出すための送信機も周波数発振器もない。それで、なぜ通信できるのか。

バックスキャッタ通信とは、受信した電波を利用して、その反射波に情報を乗せる技術だ。受信した電波のエネルギーで微小な電力を作ってチップを起動。電波を吸収・反射することでパターンを作り、0または1を送る(図表1)。RFIDタグの場合は、質問機(リーダー)が電波を射出し、端末(タグ)に給電。商品ID等を反射波で送り、質問機が読み取る。バックスキャッタ通信機能を持つ端末をセンサーに付ければ、無電源でセンサーデータの送信も可能だ。

図表1 バックスキャッタ(後方散乱)通信の基本

図表1 バックスキャッタ(後方散乱)通信の基本

端末側は自ら電波を発しない。これによるメリットは多い。慶應義塾大学 環境情報学部の三次仁教授は「Bluetoothの数十mW、Wi-Fiの数百mWに対して、数十μWで動く。チップも非常に小さいので、超小型・低コストな端末が作れる」と話す。電池交換がいらないので、モノに埋め込むことも可能だ。無線チップは1mm以下で、アンテナを含めて値札タグに埋め込めるほど薄い(写真①)。

【写真①】バックスキャッタ通信のタグ。中央の黒い点が無線チップで、銀色の部分がアンテナ

【写真①】バックスキャッタ通信のタグ。中央の黒い点が無線チップで、銀色の部分がアンテナ

また、同大学院 政策・メディア研究科の徳増理特任教授は「電波を反射しているだけなので規制を受けない。無線免許も不要」であることも見逃せないポイントと指摘する。

慶應義塾大学 環境情報学部 教授の三次仁氏(右)と、同大学院 政策・メディア研究科 特任教授の徳増理氏

慶應義塾大学 環境情報学部 教授の三次仁氏(右)と、同大学院 政策・メディア研究科 特任教授の徳増理氏

こうした利点を活かして、今後は構造物等のセンシング用途などでの活用も期待される。

写真②は、慶大とJAXAが共同で実験したヘリコプターブレードの振動・変形測定の様子だ。高速回転するブレードには重量・サイズのあるセンサーや通信機は取り付けられないため、軽量で薄く、電池交換も不要なバックスキャッタ通信型のセンサーをブレード内に埋め込むことで対処した。

【写真②】慶應義塾大学の三次氏らとJAXAによる共同実験。左のヘリコプターブレードに、その右側にあるセンサー(バックスキャッタ通信機能を搭載)を埋め込み、高速回転時に歪み・変形を測定した。右写真の天井にある白い端末が質問機で、ここから電波を照射し、反射波を受け取る

【写真②】慶應義塾大学の三次氏らとJAXAによる共同実験。左のヘリコプターブレードに、その右側にあるセンサー(バックスキャッタ通信機能を搭載)を埋め込み、高速回転時に歪み・変形を測定した。右写真の天井にある白い端末が質問機で、ここから電波を照射し、反射波を受け取る

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