<連載>SX/GX最前線(第3回)A.T.カーニーが見る通信事業者のSX戦略 「日本のレア」でビジネス創出 

他の産業界と同様、通信業界でもSX/GXは欧州が先行している。だが、日本の取り組みには「海外キャリアも注目する点がある」と、A.T.カーニーは分析する。日本キャリアの目指すべき道とは。

A.T.カーニー シニアパートナーの針ヶ谷武文氏(右)と滝健太郎氏

A.T.カーニー シニアパートナーの針ヶ谷武文氏(右)と滝健太郎氏

――SX/GXの取り組みで、海外と日本の通信事業者に違いはありますか。

針ヶ谷 温室効果ガス(GHG)の排出量は、自社が排出するScope1/2とサプライチェーン排出量のScope3に区分されていて、グローバルでは基本的にScope3まで含めた全体をどう減らすかが語られています。

特に先行しているのが欧州です。

2040年にScope3も含めたネットゼロを達成するという目標を軒並み掲げており、米国のAT&T等もそれに追随しています。対して、日本の事業者はScope1/2がメイン。Scope3はあまり積極的に言っていません。

これは通信業界に限ったことではなく、欧州企業は真剣度が一段上です。政府の要請が強いうえに、市場からもScope3までやらないと意味がないと見られています。

当社は様々な業種のGXを支援しており、欧州では、コスト削減のように、GHG排出の削減割合に応じて報酬を払うといったコンサルティングメニューが成り立っていますが、日本はまだ相談レベルです。

 国内では、GHG削減の結果としてコスト削減と利益創出を狙うという方向性でないとプロジェクトが成立しません。欧州ではコストと無関係にGHG削減のプロジェクトが成立しているのは、罰則規定も資本市場からのプレッシャーも違うからです。

欧州も注目するGreen by ICT

――日本でもいずれはScope3の削減が必要になります。

針ヶ谷 通信事業者もScope3の割合が大きく、中でも通信機器の製造に関わる部分が大きい(図表1)。海外ではこの部分をコントロールするために、機器ベンダーに対応を迫っています。

図表1 通信キャリアのCO₂排出量の内訳(公表情報を基にした日本のキャリアの例)

図表1 通信キャリアのCO₂排出量の内訳(公表情報を基にした日本のキャリアの例)

一方で、日本のほうが進んでいる領域もあります。他産業の脱炭素に貢献することでビジネスオポチュニティを作ろうとする取り組みです。

 海外ではBeing sustainableとEnabling sustainabilityという言い方をしますが(図表2)、前者は日本で言うGreen of ICT、後者はGreen by ICTです。

図表2 Stage of Excellence of Telco’s sustainability activities

図表2 Stage of Excellence of Telco's sustainability activities

Green by ICTは、業務やサービスをリモート化して移動を減らす、IoTでGHGを可視化・削減するといったものですが、これで先行している日本の通信事業者の取り組みには、欧州もかなりの関心を持っています。

――日本の事業者には何が必要ですか。

針ヶ谷 Green of ICTについては、規制も市場の評価もいずれ欧州のようになる可能性は高いと考えています。その準備が必要です。

 欧州の事業者がGHG削減を真面目にやっているのは、それをソリューションとして外販する狙いもあります。ソリューションビジネスは、自らが行ったノウハウを提供するからこそ、顧客に対して説得力が出ます。

日本のGreen by ICTに注目しているのも、そのためです。日本の事業者は他産業向けのGXソリューションで海外に打って出られる可能性もあるでしょう。

針ヶ谷 日本の通信機器ベンダーも準備が必要です。

ノキアなどの欧州ベンダーは、Scope3の削減を進める通信事業者の要望への対応を進めています。日本の通信事業者ばかり見ていると、将来的にグローバルでビジネスができなくなる可能性があります。

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