5Gの“質”に着目した普及拡大を 社会基盤としてのモバイルインフラ拡充の喫緊性

日本の5G人口カバー率は96.6%に達したが、“質”の面で海外先進国に遅れていると言わざるを得ない。5G-SA普及による質向上に、危機感をもって努めることが必要だ。

日本総合研究所 主席研究員/プリンシパル 浅川秀之

日本総合研究所 主席研究員/プリンシパル 浅川秀之

日本では2020年春にNTTドコモ、KDDI及びソフトバンクが5G商用サービスを開始し、それから3年を経た2023年3月末の5G契約者数は6981万にのぼる。2030年にはアジア太平洋地域において、5Gモバイル接続率は4割を超えてくると予測されており(図表1)、5Gの契約数は今後も増加傾向が続くとされている。

図表1 アジア太平洋地域におけるモバイル接続率(テクノロジー別)

図表1 アジア太平洋地域におけるモバイル接続率(テクノロジー別)

日本の5Gの人口カバー率は2023年度末時点で全国96.6%。5G対応端末でなければ5Gの通信速度などは体感できないが、少なくともかなり広範なエリアで既に5Gが利用できる状況にはなっている。

通常、5Gは4Gよりも通信速度が速く、よりリッチな動画視聴などがスムーズに利用できる。しかしながら世界に比して、現在の日本の5G通信速度は決して速くない。2023年6月に公開された英国Opensignal社のデータによると、日本の5Gダウンロード速度が156Mbpsなのに対し、韓国は432Mbps、シンガポールは376Mbpsなど、比較すると大きな差がある。5G捕捉率(5Gが利用可能な時間割合)もアジア先進国が20~30%とされる中で日本は7%程度に留まる。最新の5Gスマホを持っていても、5Gのメリットを体感できる状況にはない。また5Gのフル機能が活用可能な5G-SAについては、利用可能なエリアは都心の主要駅の一部などかなり限定的である。

アジア先進国に比べて、人口あたりの5G基地局密度が低いことや、信号の速度や安定性を増すとされている最新技術の活用程度が低いことなどが、この原因とされている。最近の料金値下げの影響で、各通信事業者の5Gへの投資が思うように進んでいないことも要因と考えられる。

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浅川秀之(あさかわ・ひでゆき)

日本総合研究所 主席研究員/プリンシパル。大阪大学大学院基礎工学研究科修了後、NECにて海外向け光通信装置の開発に従事。日本総合研究所に転身、通信メディア・ハイテク戦略グループに所属、現在同グループ長。一貫してICT分野やテクノロジー分野の経営および事業戦略策定とその実行支援を専門とする。大手通信事業者等のM&Aにおける事業デューデリジェンスや戦略策定支援なども実施。総務省情報通信審議会委員、総務省電気通信市場検証会議構成員など。趣味はトライアスロン、トレイルランなどエンデュランス系スポーツ

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