TOHOシネマズ「50拠点のPBXをAsteriskに刷新でコスト削減」

全国50カ所以上にシネマコンプレックスを展開しているTOHOシネマズ。同社はオープンソースのIP-PBXソフト「Asterisk」ベースのPBXによりIP内線網を構築。さらにその後、各拠点のレガシーPBXもAsteriskにリプレースし、大幅なコスト削減を実現したという。

番号計画は各拠点番号を踏襲

全国IP内線網の運用に当たって、番号計画を作成。「“#0”という特番を設定し、3ケタの拠点番号プラス内線代表番号で統一した」という。TOHOシネマズでは、各劇場であらかじめ拠点番号を決めていたため、それをそのまま踏襲して当てはめた。内線代表番号は、「210」がオフィス、「220」が映写室というように決めている。例えば、「#0-009-210」をダイヤルすれば、TOHOシネマズ六本木のオフィスの電話機が一斉に鳴るというわけだ。

社員が認識している拠点番号と、内線の拠点番号が同一のため、社員からは「電話をかける拠点を連想しやすく、使いやすい」と好評という。

問題点もあった。最初に導入したVoIPゲートウェイがアナログインターフェースのもので、「例えばアナログポートが閉塞状態になってそのまま回復せず、中継交換しているAsteriskが接続できず通話ができなくなるなど、アナログ特有の問題が発生していた」と菊池氏は説明する。ただし、「VoIPゲートウェイをISDNのBRIインターフェースのものに交換すれば問題は発生していないので、順次リプレースを実施した」という。

IVRもAsteriskベースに更改

内線IP網の構築が一段落し、システムも安定稼働するようになると、菊池氏は「各拠点に展開しているレガシーPBXをAsteriskベースのIP-PBXにリプレースできないか」と考え始めた。

だが、レガシーPBXで実現している機能のすべてをAsteriskで実現できるわけではない。特に同社にとってはパーク保留が必須の機能だった。Asteriskでパーク保留を行う場合、プログラマブルキーのランプ表示をする仕様にはなっておらず、音声メッセージのみでの対応のため、メッセージを聞き逃すと、その呼がどこに行ったのか分からなくなるという不便さがあった。

つまり、慣れ親しんだパーク保留が使えない限りはAsteriskへのリプレースはできず、一旦断念した。

そうした折、各シネコンに導入していたIVR(音声自動応答)システムがリースアップの時期を迎え始めた。前述のラボでAsteriskのIVR機能も試したことがあった菊池氏は、AsteriskベースのIVRシステムへのリプレースを考えた。具体的には、IVR専用のAsteriskサーバーを新たに用意し、外線の問い合わせに対して音声自動応答をし、PBX配下のオペレーターの電話につなぐ形だ。

ただ、IVR専用Asteriskサーバーをいちから開発する予算はない。このため、既存製品をカスタマイズすることを考え、IVRシステムとしても利用できることを謳っていたAsteriskベースのアプライアンスであるIPテレフォニーサーバーをリストアップした。だが、パッケージ製品だけに、カスタマイズ化を引き受けるベンダーはなかった。

自社開発を考え始めた菊池氏だったが、ある時Asteriskユーザ会で知り合った山梨県のアイウィーヴの小西康弘氏に相談した。Asteriskを用いたCTI開発も行っていた同社から「カスタマイズ化は可能」との返事をもらった。ただし、開発費用に数千万円かかるという。菊池氏は「一度に数千万円の投資は難しかったが、順次展開するという約束で、投資額を分散させることを提案し、Asteriskユーザ会というつながりもあって信用してもらい、無事に導入することができた」と明かした。

このアイウィーヴの小西氏との出会いが、懸案のレガシーPBXのAsteriskへのリプレースにもつながることになった。

相談を受けた小西氏は、TOHOシネマズが導入を検討していたナカヨ通信機のSIP電話機のパーク保留に対応したパッチファイルを開発し、voip-info.jpにて公開。Asteriskサーバーにこのパッチを当てることで、パーク保留のランプ非表示という問題を解決した。同時に既存IVRにて実現していた音声認識もAsteriskで実現した。Juliusと呼ばれるオープンソース音声認識エンジンとの連携モジュールを開発し同様に公開した。

これをきっかけにリプレースプロジェクトを発足。現在は、拠点のレガシーPBXをAsteriskベースのIP-PBXに順次更改し、電話機も使い勝手のよいナカヨ通信機のSIP電話機を導入。さらにIVRもAsteriskで実現している(図表)。

図表 TOHOシネマズのAsteriskを活用した内線網(クリックで拡大)
図表 TOHOシネマズのAsteriskを活用した内線網

各種システムとの連携に期待

菊池氏は「確かにAsteriskは、レガシーPBXで実現している多くの機能が使えないなど、問題点も多い。だが、さまざまなシステムとの連携が、Asteriskを入口にして実現できる」とメリットを語る。IVRとの連携はその具体例だ。

今後については、各拠点のAsteriskベースのPBXとIVRを相互に連携させたコールセンターの構築や、同社のインターネットチケットサービス“vit”との連携を検討している。さらに「最近、日本Asteriskユーザ会で電話の全録音が簡単にでき、Asteriskとの親和性も高いオープンソースOrekaの情報も得た」という。「だからこそ、Asteriskを選択した」と語る菊池氏のシステム拡張構想は膨らむ一方だ。

月刊テレコミュニケーション2011年8月号から再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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