NTTは、光パラメトリック増幅(OPA:Optical Parametric Amplifier) を用いた広帯域一括増幅中継器を世界で初めて構成し、 OPA 中継器としては世界最大となる14.1THz 帯域 を実現し、中継間隔80kmで最長400kmにおよぶ波長多重信号の一括光増幅中継伝送実験に成功したことを発表した。
光パラメトリック増幅中継伝送におけるこの実験成果の位置づけ
現在の光ネットワークでは、約4THzの増幅帯域を持つ光増幅器 (EDFA)が広く用いられている。これは、波長多重されたデジタルコヒーレント光信号を 、 中継間隔約80kmで光のまま増幅中継し、 目的地まで伝送するもの。これまで、 既存の光ネットワークと同じ中継間隔を保ちつつ、 伝送する波長あたりの光信号を高速化することによって伝送容量の拡大を図ってきた。
NTTは利用可能な波長資源(光帯域)を拡大するため、PPLN(Periodically Poled Lithium Niobate:周期的分極反転ニオブ酸リチウム)導波路を用いた光パラメトリック増幅を用いて広帯域増幅中継の実証に取り組んできたが、中継間隔は30km であり、増幅帯域と中継間隔の両立が技術課題となっていた。光パラメトリック増幅とは、物質中で生じる非線形光学効果を利用して、異なる波長の光同士を相互作用させることで、特定の波長の光を増幅する技術をいう。
今回構成した光増幅中継器は、光増幅中継器は、80kmの中継間隔に対して十分な増幅利得を得るため、プリアンプ部とポストアンプ部の2段構成を採用した。また、 NTTの独自技術より、特性の揃った複数のPPLN導波路モジュールを実現・適用した。これにより、光パラメトリック増幅で波長多重14.1 THz の一括増幅帯域幅を実現。この帯域は従来の一括増幅帯域の2倍以上であり、NTT調べによるとOPA中継器としては世界最大だという。
実験に用いた評価用広帯域波長多重信号は、チャネル間隔137.5 GHzを想定し、OPAの基本波長から短波側に48チャネル・6.6 THz、長波側に55チャネル・7.56 THz を配置し、計103 チャネルの波長多重信号としての合計帯域は14.16 THz となった。400km(80km×5中継)増幅中継伝送後に信号特性を評価したところ、全波長で600 ギガビット毎秒以上のビットレート、かつ総容量70.4 テラビット毎秒を得ており、14.1 THzの広帯域一括光増幅中継伝送に成功したとしている。
広帯域光増幅中継伝送実験系の概略
この技術を用いることで、シングルモード光ファイバー上の波長資源が従来の3倍以上に拡大されることが期待されるという。また、波長資源拡大技術は、波長当たりの高速化(マルチテラビット化)技術との融合により、伝送容量と距離のスケーラビリティを大きく拡大する技術としても有望とみられている。NTTは、2030年代のIOWN/6Gにおけるオールフォトニクス・ネットワーク(APN)の実現に向け、独自のデバイス技術、デジタル信号処理技術、光伝送技術の融合を進める研究開発を進めていくとしている。
この実験の成果と今後の展開
なお、この研究成果は、2 023年3月5日から 3月9日に米国カリフォルニア州サンディエゴで開催された光通信技術に関する国際会議OFC2023(The Optical Networking and Communication Conference & Exhibition)において、最難関発表セッションであるポストデッドライン論文として発表された。