――今般の東日本大震災は、通信業界、ICT業界にどのような教訓を与えたのでしょうか。
鈴木 回線交換式の電話は大変だということを、改めて認識させる結果になりました。その点、インターネットは強く、TwitterやFacebookといったソーシャルメディアが安否情報の確認に威力を発揮しました。ただ、今回は予期せぬ大津波で広範囲にわたってフィジカルなインフラが切れてしまいましたので、その点はどうしようもありませんでした。
そうしたなかで、比較的早く復旧できたワイヤレスインフラの強さが改めて認識されたと思います。局舎までは光ファイバーを引いて、そこから先はワイヤレスでインフラを構築するといった動きがこれからは一般的になるのではないでしょうか。「光の道」議論もありましたが、ワイヤレスも広帯域化していますので、すべて光でなくてもさほど不自由もないと思います。
――福島原子力発電所の事故に端を発した電力不足問題も深刻です。
鈴木 私は10年ほど前に、「電力の3割はIT関連産業が消費するようになる」と試算しましたが、その通りに電力依存産業というべき状況になっています。これをいかにして削減するかが喫緊の課題です。
そのためには、クラウド化の推進が1つの方法だと思っています。我々サービス提供側の取り組みも必要ですが、ユーザーの方々にも、データセンターに預けることによってすべての資産がネット上にあるという考えを持っていただければ、随分と余計な消費電力量が減ると思います。また、震災後の計画停電がITを利用する業務に大きな影響を与えたことからも、クラウドのメリットがはっきりしたのが今回の教訓でしょう。
――今夏の企業の使用電力削減目標は15%に決まりましたが、通信業界での目標達成は容易ではなさそうです。
鈴木 我々としては、データセンターそのものの省エネ化に一生懸命取り組んでいきます。当社は4月26日に島根県松江市に「松江データセンターパーク」を開設しましたが、商用データセンターとして国内で初めて外気を利用した冷却方式を採用しました。「IZmo(イズモ)」と名付けた外気冷却コンテナユニットを当社で独自開発したもので、環境の変化に合わせて外気と空調を組み合わせた複数の運転モードで自動的に空調を制御することで、空調にかかる消費電力を大幅に削減できるのです。
今回の震災で、日本には自然災害というリスクがあり、それと寄り添っていかなければならないことを再認識させられました。そういう前提で、最適なネットワークやコンピューターシステムを考えていけば、通信業界、IT業界とも世界で最も先へ進むことができるかもしれません。これだけの不幸なことがあったのですから、よい方向に向けて、大きく動き出すべきだと思っています。
通信量が予測できない時代に
――現在の通信業界の変化をどのように捉えていますか。
鈴木 電話だけの時代は、通信量の将来予測はほぼ正確にできていました。しかし今は、新端末や新たなアプリケーションの登場で想定できない大量のトラフィックが発生するようになりました。ネットワークは、そのような変化に追いついていかなければなりませんが、予測が難しくなった分、どうしても後追いになってしまいます。今や、主役は我々通信事業者から端末ベンダー、ソフトウェアベンダーへと移って、彼らがネットワークのトラフィックを決めていく時代になってきました。
携帯電話は移動しながらでもコミュニケーションができるツールとして飛躍的に普及しましたが、スマートフォンやタブレット端末の登場やワイヤレスインフラの高度化で、それと同じことがインターネットやコンピューターの世界でも起きています。我々も法人向けにiPadとモバイルWi-Fiルーターをセットで提供していますが、かなりの反響に驚いています。ワイヤレスインフラと新端末が結びついて、企業に新たなワークスタイルを生んでいるのです。
ただし、先日のソニーの顧客情報漏えい事件のようなことがありますので、我々はセキュリティや信頼性を一層高め、ユーザーが安心・安全に利用できるサービスを作っていかなければなりません。