無線LAN機能や認証機能をSD規格に盛り込む
図4にSDカードの今後の規格拡張の方向性を示す。現在、SDカードの中にフラッシュメモリといっしょに無線LAN(Wi-Fi)を搭載するSDカードの規格を検討している。
図4 SD規格のさらなる拡張 [クリックで拡大] |
その用途は、主にデジタルスチルカメラで写真や動画をサーバーにアップロードすることや、カメラ同士での無線によるファイル交換などを想定している。無線LANを内蔵したSDカードが登場することによって、ネットワーク機能を有していないデジタルスチルカメラ、デジタル家電、健康関連機器などを容易にネットワークに接続することができるようになる。そのため、ホームネットワークなど先進的なネットワーク環境の実現手法のひとつとして期待されている。
またSDAでは、メモリカードといっしょにスマートカード機能などを提供するセキュアエレメント(SE)を搭載するSDカードとして、smartSDの規格をすでに策定しており、今後、これをさらに発展させる予定である(図5参照)。
図5 モバイルクラウドサービス [クリックで拡大] |
将来、モバイルクラウドアプリケーションの普及が見込まれ、携帯電話やスマートフォンへのコンテンツ配信などでより厳密に認証・決済を実施するケースが多くなると予想される。その際、SDカードのSEを利用することができれば、さまざまな機器を安全にクラウドへ接続することができるようになるはずだ。
無論、SIMカード、またはSIMカードの中のSEを利用することで、認証・決済をすることも可能であろう。しかし、モバイルクラウドアプリケーション市場には通信キャリアを介さずサービスプロバイダとモバイル端末間で直接、認証・決済をしたいというニーズがある。現在、それを実現する手段としてSEをモバイル端末に埋め込むか、もしくはmicroSDカードに搭載する方法が検討されている。
microSDカードにSEを組み込むことで、購入したコンテンツやその権利情報がモバイル端末を買い換えたときでも容易に移行できるというメリットが生まれる。また、microSDの中にNFCによる通信機能を搭載することも検討されている。
さらなる市場拡大へ向けて
SDカードの基本規格は、誕生してから10年間にわたり、市場のニーズに沿って拡張を続けてきた。半導体メモリカードのデファクトスタンダードとなった今では、成功した標準化の一例と言える。半導体メモリカードの特徴は、小型・軽量化、低消費電力化、高速化が可能な記録媒体であるところだ。この利点を活かし、今後も多様なモバイル機器の記録媒体として市場を拡大することができるとみている。今やブルーレイディスクの容量(50GB)を超える大容量化をも実現しているわけだが、同クラスの磁気ディスクや光ディスクと比較したときの最大の課題といえば、ビット単価がやや高い点であろう。しかしこの課題も、フラッシュメモリの技術革新と市場拡大で近い将来に克服できると考えている。
SDカードのように長期にわたり国際的な標準化を推進する上で大切なことは、技術的なトレンドを察知し、その実現方法を取捨選択して規格に盛り込むことである。しかし海外の企業では業務が細分化されているため、標準化専門の担当者が参加することが多く、標準化のための標準化議論となり易い。妥協を重ねた結果、八方美人的な規格になってしまうケースがよくある。標準化の場では具体的な使われ方や実装手段をなかなか議論できないが、これを知って標準化活動をするのとそうでない場合とでは、違いは大きい。
その点で日本の技術者は、若いときに開発、設計の経験を積んでいる人が多く、的を射た提案が多い。英語がさほど堪能でなくても技術的に提案の長所を説明でき、相手が理解できるレベルの英語力があれば、今後も国際的な標準化の場でおおいに活躍できるであろう。