NTT Com、1枚のSIMでキャリアを切り替えられるIoT向け冗長化サービス

昨年発生したモバイル回線の大規模障害を受け、IoTでもキャリア冗長へのニーズが高まっている。NTT Comは、かねてよりモバイル回線冗長化サービスを提供してきたが、今回発表した「Active Multi-access SIM」は、1枚のSIMのみで通信状況の監視、回線の切り替え、復旧時の切り戻しが自動的に行えるサービスだ。従来のSIMと置き換えるだけで、様々な端末でキャリア冗長が実現する。

NTTコミュニケーションズ(以下NTT Com)は2023年3月28日、“幅広い端末でキャリア冗長を実現できるIoT向けSIM”として「Active Multi-access SIM」(以下、同SIM)を発表した。

発表に合わせ、東京・大手町で記者説明会が開催された。NTT Com プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 IoTサービス部門 部門長の吉宮秀幸氏は、キャリア冗長のニーズが高まる中、IoTデバイスの場合は「現場の設備にSIMが組み込まれており、交換は容易ではない。デバイスで自動的に切り替えるケイパビリティが必要だが、デュアルSIMに対応した端末は非常に少ない」と現状を説明した。

複数のキャリアに対応したSIMを用いる方法もあるが、こちらも対応デバイスは少ない上、キャリアの切り替え機能の開発を顧客側で行わなければならないというハードルがあるという。

NTT Com プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 IoTサービス部門 部門長の吉宮秀幸氏

NTT Com プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 IoTサービス部門 部門長 吉宮秀幸氏

このような状況に対応するため、NTT Comは1枚のSIMでローミング方式により複数キャリアに接続できるサービス「IoT Connect Mobile(R) Type S」(TSLプロファイル)を提供したり(参考記事)、2022年10月には「ドコモIoTマネージドサービス」において2つのSIMスロットを搭載したIoTゲートウェイを用いたサービスを開始したり(参考記事)などの取り組みを行ってきた。

1枚のSIMで通信監視、回線切り替え・切り戻し

今回発表した同SIMは、それらとは異なるアプローチでIoTデバイスのキャリア冗長を実現する。SIM内のプログラムで通信状況の自律的な監視、切り替え、切り戻しが可能なため、1枚のSIMのみで障害時に自動でキャリアを切り替えることができる。デュアルSIMへの対応やIoTゲートウェイは不要であり、端末側に特別な機能も必要ない。

「Active Multi-access SIM」の概要

「Active Multi-access SIM」の概要

同SIMでは、SIM自身が定期的に通信確認を実施し、無通信を検知すると予備キャリアに切り替え、一定時間経過後はメインの通信キャリアに切り戻す。この一連の動作をSIM上で自動的に行う仕組みは日本初であり、現在特許出願中とのことだ。

メインの通信回線はMVNO(NTTドコモ回線)、障害発生時等のサブ回線はTransatelのローミング接続によってKDDI回線を利用する。監視や切り替えの動作は国際的な標準化団体であるETSI/3GPPで標準化された技術に準拠しているため、幅広い端末で利用可能としている。

同部門 担当課長の永作智史氏は「既存端末を生かしたままキャリア冗長を実現したいケースや、小型IoTデバイスなど複数スロットの実装が難しいケース」などを想定される活用領域に挙げた。

NTT Com プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 IoTサービス部門 担当課長 永作智史氏

NTT Com プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 IoTサービス部門 担当課長 永作智史氏

実現のカギはSIMの領域分割

永作氏は、1枚のSIMで通信状況の監視・切り替えを可能にする構成を詳しく説明した。SIMは通信プロファイル領域とアプレット領域に分かれており、同SIMではアプレットに通信監視機能、切り替え機能を具備している。監視機能が回線の障害を検知すると、アプレットの通信切り替え機能がSIMの通信プロファイル領域に書き込まれたキャリア接続情報を書き換える。これにより「デバイスから見ればSIMが書き換えられたような状態になり、接続先を切り替えることができる」(永作氏)という。

「Active Multi-access SIM」の構成

「Active Multi-access SIM」の構成

この仕組みは、NTT Comとトレンドマイクロが開発した、SIM内の通信プロファイル領域とアプレット領域を分割する技術を活用している(参考記事)。この技術により、アプレット領域をパートナー企業に開放し、独自のアプリケーションを実装することも可能になるという。

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