<サイバーセキュリティ戦記>NTTグループのプロフェッショナルたちNTT西日本のコミュニティ立ち上げ人「叩けよさらば開かれん」

重要インフラ企業10数社が合同サイバー演習

谷口が大阪勤務となったのを機に、CISSP 東海コミュニティこそ活動を休止しているが、OWASP NagoyaとCCSCは今も活発に活動中だ。谷口も中心的役割を担い続けている。

OWASP Nagoyaは、セミナー形式やハンズオン形式のイベント、そして交流を深めるための「オワスプナイト」など、年に数回のイベントを開催している。「イベントを開催すると100名くらい集まる大きなコミュニティに育ちました」

中部電力、中部国際空港(セントレア)、東邦ガス、愛知県警など、中部地域の重要インフラを担う企業・団体が数多く参加するCCSCは、隔月開催の情報交換ワーキンググループや、年1回の合同演習などの活動を行っている。

合同演習には、中部を代表する10数社の重要インフラ組織のセキュリティ担当者約100名が1つの会場に集まる。

その大きな特徴の1つは「分野横断」の演習であることだ。用意されている演習シナリオは、参加組織ごとに別々だが、「『あの会社に対策を聞きに行け』という社長指示が出たり、愛知県警さんも参加されていますから、本物のお巡りさんが事情聴取に来たり」と、参加団体同士が交流するシナリオが組み込まれているという。

「コミュニティ活動をしていて、すごく面白いのは、いろいろな考え方や価値観を知ることができるところです。業種や担当業務、立場などによって、考え方や価値観は全然違ってきます。セキュリティ対策の正解は1つではない。多様なアプローチがあって、どれも正解であり、時と場合によって最適解が変わってくるということがよく分かりました」

もちろん苦労もある。谷口が特に気を配るのは、コミュニティの熱量をどう維持するかだ。

NTT西日本 谷口貴之

最初は熱意のあるメンバーばかりだったコミュニティが、規模の拡大やメンバー交代に伴い、熱量が失われていくというのはよくある話である。

「大切なのは、1人1人が主役になることだと思っています。1人1人が主役になるとは、教える側/教わる側といった関係に固定されないこと。お互いが教える側であり教わる側である関係のことです」。そこで例えばCCSCの情報交換ワーキンググループでは、順番に発表を担当するなど、「関係が入れ替わる」「関係をかき混ぜていく」ことを意識してコミュニティを運営しているそうだ。

「1人1人が主役になって、『Aさんはこんな課題意識を持っているんだ』といったことをお互いに知り合うようになれば、顔の見える関係がコミュニティ内にできてきます」

そして、この顔の見える関係が、コミュニティの熱量維持へとつながっていく。「名古屋は製造業が多い地域です。IoTやOTといわれる分野で日本のセキュリティを引っ張っていけるような活動をしていきたいですね」

「動くと動いた分だけ、周りの人が助けてくれた」

現在、NTT西日本のセキュリティの顔の1人として、自治体・大学などのセキュリティ関連システムの構築・運用、国際的イベントのセキュリティ監視、コミュニティや大学講師等の対外業務などの幅広い活動を行っている谷口。

NTT西日本に在籍する女性セキュリティエンジニアのためのコミュニティの設立・運営もサポートした。さらに、「いろいろな業界の企業が助け合える、CCSCのようなコミュニティを九州や北陸、四国などにも作っていきたい、というのが今考えているチャレンジです」と谷口は言う。

NTT西日本 谷口貴之

「叩けよさらば開かれん」――。谷口は新約聖書のこの有名な一節をよく思い出す。

谷口は3つのコミュニティを立ち上げたが、そこには周囲のサポートが常にあった。

「まったく交流がなかった人に突然連絡を取って、『一緒にコミュニティをやりませんか』と誘うわけですが、案外やってみると、みんな喜んで参加してくれたり、いろいろな人を紹介してくれたりするんです。動くと動いた分だけ、周りの人が助けてくれました。だから迷ったときには、いつもこの言葉を思い出して、自分のお尻を叩いているんです」

今はその恩返しとして、若手などを助ける機会もどんどん増えてきた。

「セキュリティの概念は、クラウドやゼロトラストなどの登場によって、大きく変化しています。また、セキュリティの範囲自体も広がっていますから、若い人からすれば第一線で活躍できるチャンスがいっぱい転がっていると思うのです」

自ら目指してセキュリティの第一線に辿り着いた谷口。自身のこれまでの歩みを振り返り、こうエールを送った。

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