大手PBXベンダー4社のクラウド戦略――積極派はOKIのみ、他3社は慎重姿勢

クラウド化のトレンドはPBX/ビジネスホン市場にも影響を及ぼしている。国内PBX大手4社のなかで、まずOKIが「クラウドPBX」サービスを開始。他の3社はユーザーのニーズを慎重に見極める姿勢だ。

従来、「クラウド」と聞くと「コストは安くなるかもしれないが、預けるデータの安全性はどうか?」とセキュリティ面を気にするユーザーが多く、なかなか普及に向けて大きく前進することはなかった。

だが、昨年3月11日に発生した東日本大震災を境に、BCP(事業継続計画)の観点から、「データは外に預けたほうがより安全」というように、ユーザーの意識が変わってきた。通信キャリアやITベンダーが提供するクラウドサービスへの問い合わせも急増し、例えばソフトバンクテレコムには、わずか半月で従来の1年分の案件に相当する数の問い合わせがあったという。

こうしたICTの利用形態のクラウド化への急速な流れは、PBX/ビジネスホン市場でも無視できないほどの影響を与え始めている。

ユーザー企業社内に設置していたPBX/ビジネスホンをベンダーのデータセンターに置き、ネットワークを介してPBX機能をサービスとして提供する「クラウドPBX」は、以前から存在し提供事業者も徐々に増えつつあった。だが、PBX/ビジネスホンメーカー以外の新興企業が提供していることもあって、「電話は業務の要になるので、システムダウンが怖い」というユーザーの不安や、通信系ディーラーが既存ビジネスへの影響を恐れて重い腰を上げない状況も手伝って、まだまだ「市場」と言えるほどの大きさには育っていない。

一方、NEC、日立製作所、富士通、OKIのPBX国内大手4社はこれまで、個別対応のプライベート型ではクラウド対応を実施しているメーカーはあるものの、複数のユーザーにサービスを提供するいわゆる共同利用型のサービスを提供してはいなかった。

そうしたなか、OKIが昨年11月から、「EXaaS 音声クラウドサービス」(図表1)としてPBX大手4社の先陣を切って共同利用型とプライベート型の2つをメニュー化し、サービスを始めた。

図表1 OKIの「EXaaS 音声クラウドサービス」(共同利用型)のシステム概要
図表1 OKIの「EXaaS 音声クラウドサービス」(共同利用型)のシステム概要

いち早く事業を始めたOKIの狙いは何か。また、他のPBX大手3社はクラウド化への流れをどう捉え、今後どのような対応に出てくるのだろうか。

OKIの戦略「クラウドPBX市場を形成する」

「他社が様子見をしているうちに先行して取り組むことで、クラウドPBX市場を立ち上げるのが当社の一番の狙い」。OKI・通信システム事業本部企業ネットワークシステム事業部CTstage&サービスビジネスユニット・ビジネスユニット長の大槻重雄氏はEXaaS 音声クラウドサービスの投入目的をこう語る。

これまで、IP-PBX「SS9100」や「DISCOVERY01」をユーザーの自社内に構築するオンプレミス型システムとして販売しているなかで、「OKIはクラウド型サービスをやらないのか?」というユーザーの声が日に日に高まってきていて、「今がそのタイミングだ」と判断したという。

EXaaS 音声クラウドサービスは、共有型PBXをOKIのデータセンターに設置し、1ポート当たり月額1200円でIP-PBXの基本機能とシステムの保守・管理サービスを一体で提供する「共同利用型」と、専有型PBXで個別に対応する「プライベート型」の2メニューをラインナップしている。

共同利用型は500~1000ポートの中規模オフィス、プライベート型は1000ポート以上の大規模オフィスがメインターゲットだ。システムの構築と保守管理は、前者が工事子会社のOKIウィンテック、後者はOKI本体が手掛けている。

リーマン・ショック以降、企業の設備投資意欲は鈍ったままであり、電話システムも例外ではない。だが、PBX/ビジネスホンの老朽化が進み、「いくら何でもリプレースをしなければ」という時期に来ている企業も多いという。

大槻BU長は「“既存PBXをそのまま設備更新するのではなく、まずは1年でも2年でもクラウドでお使いいただいて、ダメなら買い直してはいかがですか?”という提案が、今は一番効果があるのではないか」とみる。

ユーザーターゲットは大きく2つあるという。1つは多拠点を持つ企業だ。PBXは各拠点ごとに導入されており、導入時期は異なる。このため、「PBXの寿命が来た拠点から順次クラウドサービスを提案し、試してもらう」という。

もう1つは「一定期間のみ拠点を利用する業種」。代表的なのは建設業であり、工期の間だけならPBXを購入するよりはクラウドサービスを利用するほうが安価となる。このようにOKIは、現時点では「何が何でもクラウド」というスタンスではなく、あくまでもPBXリプレース時の選択肢の1つとしてサービスを位置づけている。

月刊テレコミュニケーション2012年3月号から再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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