「海底ケーブルで大陸間をつなぐような長距離で特に効果を発揮する」(日立製作所 ネットワークソリューション事業部長の野村泰嗣氏)――。日立製作所は2012年1月11日、同社初となるWAN最適化装置「日立WANアクセラレータ GX1000」を発表した。その特徴は、距離が遠くなればなるほど最適化の効果が高まること。グローバル企業をターゲットに1月12日から販売を開始する。
多くのWAN最適化装置は、利用頻度の高いデータを装置側にキャッシュしておくことなどで、回線帯域の最適化を図っている。だが、キャッシュが有効なのは同一のデータをダウンロードするケースに限られ、頻繁に更新されるデータには基本的に役立たない。一方、企業活動のグローバル化を背景に長距離WAN回線を介した通信が増大するなか、3DのCADデータや金融データベースなど日々更新されるデータの大容量化も進展している。日立WANアクセラレータがターゲットにするのは、この「頻繁な更新」と「長距離WAN」という2つのキーワードが当てはまる領域だ。
日立WANアクセラレータがターゲットとするデータ特性 |
では、日立WANアクセラレータでは、どのような仕組みでWAN最適化を行うのだろうか。技術面における1つめのポイントは、確認信号を待たずにパケットを送信する仕組みだ。通常のTCPの場合、送信パケットの到着を知らせる確認信号を待ってから次のパケットを送信しており、その間にパケットを送信しない待ち時間が発生している。この遅延時間の影響はWANの距離が長くなるほど当然大きくなり、「例えば日米間の通信では100ミリ秒以上の遅延が発生。従来のTCPでは限界がある」(日立製作所 中央研究所所長の長我部信行氏)。そこで日立WANアクセラレータはTCPプロトコルを独自に拡張、「確認信号を待たずにパケットを送信し、無駄な時間をなくしている」という。
従来TCPの課題である(1)確認信号待ち、(2)パケット廃棄による速度低下を、日立は独自技術により解決したという |
2つめのポイントは、パケット廃棄の課題を解決していることだ。ネットワークが混雑してパケット廃棄が発生するとスループットも低下するが、日立はパケット廃棄の状況から空き帯域をリアルタイムに推計する技術を開発。「パケット廃棄率が上がっても通信速度を維持できる」と長我部氏は説明した。
この2つの独自技術により、日立WANアクセラレータは、「日米間のファイル転送では約15倍の高速化を実現できる」(日立製作所 ネットワークソリューション事業部 ネットワークシステム本部 キャリアネットワーク第一システム部 部長 桝川博史氏)とのこと。なお、従来TCPとの接続性は保たれており、サーバーやクライアント端末の設定変更などは不要だ。
従来TCPと比べて、理論値ではこのグラフの通り、実際には確実にこれ以上の加速効果が得られるとのこと |
また、日立WANアクセラレータは、キャッシュや圧縮技術などを利用した従来のWAN高速化装置を否定するものではなく、併用することで、さらに効果を高めることができる。