<特集>ワイヤレスIoT最新動向IoTを高度化する第3のWi-Fi 802.11ahが2021年度内に実用化へ

920MHz帯を用いるIoT向けWi-Fi「11ah」の国内利用が2021年度内に始まる見込みだ。1km超の飛距離と、動画も送れる数Mbpsの通信速度を併せ持つ新規格の実用化が近づいてきた。

1km飛び、動画も送れるWi-Fi版のLPWA――、IEEE802.11ah(以下、11ah)の国内利用を可能にするための制度化が大詰めを迎える。

「Wi-Fi HaLow(ヘイロー)」と呼ばれる同規格の推進を目的として2018年11月に発足した802.11ah推進協議会(AHPC)副会長の鷹取泰司氏によれば、「米国ではすでに(対応機器も)実際に展開されている」。日本では、同氏が“最後の山場”とする総務省 電子タグシステム等作業班および陸上無線通信委員会での審議がまもなく開始される予定だ。

「2021年度の第1四半期に合意すれば、デバイスメーカーも商品化へ動き始められる」と同氏。「年度内に制度施行まで持っていきたい」と展望する。

920MHz帯を使う他の通信規格との共用条件については、関係者との検討でほぼ固まっている。並行してフィールド実証、チップ/デバイスメーカーへの働きかけも続けてきており、いよいよ実用化へのカウントダウンが始まった。

“Wi-Fiファミリー”の利点11ahは、920MHz帯ですでに使われているLPWAに似た性質と、Wi-Fiの利点を併せ持つ。「5GHz帯・屋内前提の11acに対して、その最新技術を活用しながら屋外でも使えるように作られた」(鷹取氏)もので、2017年に仕様が公開された。

主な特徴は次の3つだ。

1点目は通信距離。2.4/5GHz帯を使う従来のWi-Fiよりも長距離の通信を可能にするために750~950MHz帯を使用する。伝搬距離は1km超で、かつ見通し外通信にも適する。

2点目は、一般的なLPWAに比べて高速な数Mbpsの通信が可能なこと。鷹取氏によれば、「周波数利用効率を高めるため、Wi-Fiで極められてきた効率化技術」がこれに寄与しているという。

帯域幅が異なる3つのモードが規定されており、帯域幅1MHzで平均1.5Mbps、実用上の最大幅である4MHzなら平均5Mbps程度と、画像・映像データの伝送も可能だ。Wi-Fiで実績のあるQoS機能やAESベースの暗号化機能も備える。

3点目は、オープンかつIPベースであること。ネットワーク構成の自由度が高いのがメリットだ。

例えばLoRaやSigfoxは独自プロトコルであり、LoRaなら専用のネットワークサーバーが必要で、Sigfoxなら1国に1事業者が展開するエリアで使うことになる。対して、11ahの実証を行った自治体等からは、「プロトコル変換の手間がなく、すぐに試せるのが嬉しい、他のLPWAとコスト感がかなり違ってくると言われている」とAHPC運営委員の阿部正和氏は話す。「IPベースの端末やアプリなど既存資産を活用できる」ので、端末、アクセスポイント(AP)、クラウドまでユーザーが自由に組み合わせてネットワークを構築できる。

図表 長距離をカバーする802.11ah

図表 長距離をカバーする802.11ah

特徴はそれだけではない。

消費電力を抑えるため、AP側で端末のON/OFFを制御しスリープ時間を長くする機構を搭載している。デバイスの電池駆動も可能だ。

ネットワーク設計・構築に関しては、スター/ツリー構成が可能で中継伝送機能も備える。収容端末数はAP当たり1024台までと柔軟性・拡張性に富む。多数の端末を用いる際のパケット衝突を回避するため、グループごとに通信のタイミングを分ける衝突防止機能も規定されている。

月刊テレコミュニケーション2021年2月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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