製造業からの5Gへの期待は高い。
令和2年版情報通信白書によれば、産業別の調査で「5Gに関心がある」と答えた割合は製造業がトップだ。「取り組み、検討を開始している」企業の割合は32.2%で、情報通信業(30.1%)よりも多い(図表)。
図表 企業の5Gへの関心
ただし、大企業と中小企業では顕著な差も出ている。事実、製造業でも5G活用の実証実験やトライアルは大企業の例がほとんどだ。
現状、製造業では5Gの導入検討がどのように進んでいるのか。そして、本格普及には何が必要なのか。産業IoT推進を目指す業界団体、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)の5G先進活用研究分科会 主査の苗村万紀子氏と、メンバーの内藤信吾氏、鍋野敬一郎氏に聞いた。
(左から)5G先進活用研究分科会 主査の苗村万紀子氏(日立産機システム)、メンバーの内藤信吾氏(ダイフク)と鍋野敬一郎氏(フロンティアワン)※カッコ内は所属
超低遅延は「数%に過ぎない」――製造業の現状を教えてください。
苗村 製造業の期待は実際に高まっています。ただし、現場では懐疑的な見方が多いのも事実。URLLCが低遅延・高信頼だと言っても、制御系では確実にデータが届くのが当たり前という文化があります。ベストエフォートが前提の携帯電話ネットワークに対しては、信頼性が重要な制御システムに携わる人からすると「大丈夫か」という不安が拭えません。
今はその溝を埋めるために共通認識を作っていく段階ですね。
――必要なことは何ですか。
苗村 使い方を幅広く検討することです。数msの低遅延な制御が必要な用途や、確実なレスポンスを約束しなければならないケースは製造業で使われるアプリケーションのうち数%に過ぎません。
例えば、ポンプや空気圧縮機の制御なら数百ms、温度調整なら秒単位の遅延でも許容できると考えられています。製造業側はもっと寛容になるべきで、URLLC以外にも、画像の共有や解析で5Gの大容量通信を活かせば、ITの使い方は画期的に変わるはずです。AIの画像解析で品質管理をしたり、作業員ごとの業務のバラツキをなくすといった場面では、これまで5秒に1枚の画像しか使えなかったものが、より精緻にできるようになるのですから。
鍋野 現場の遠隔監視・運用は5Gの有望な使い方です。特に化学プラントのように海外進出が進んでいる領域では、COVID-19の影響もあって従来のように現地に人を送れません。海外の工場やプラントの状況を国内のセンターから監視し、トラブル発生時には遠隔から指示する必要があります。
現場では計器・センサー、カメラが増えており、そのデータを収集するために必要な通信容量が拡大しています。遅延も少ないほうがいい。私がコンサルティングで関わっている案件でも、OT系の情報を吸い上げてデジタルツインを作り、機械を制御することを目指していますが、そこで5Gが必要になります。
リアルタイムに指示が出せれば生産性は確実に上がりますし、的確な制御もできる。5Gに先行投資するほど、無駄は確実になくなります。