木更津市とNTT東日本は2019年3月28日、ICTを活用した鳥獣害対策の共同実証実験を行うと発表した。田畑への被害を食い止めるだけではなく、獣肉加工の技術を持つ企業をもプレイヤーに巻き込み、将来的には、損害を与えていた鳥獣を地元の産品として活かしたい考えだ。
被害額予想は2200万円程度、その6割はイノシシ
アクアラインで東京都と結ばれる房総観光の入口、千葉県木更津市。農業、漁業が盛んなこの地でも害獣による被害が深刻化している。
被害額の6割を占めるのがイノシシで、2018年度には被害額が2200万円を超えるとも予想されている。これは5年前の3倍以上の被害額だ。捕獲頭数も増えてはいるが、被害拡大には追いついていない。
木更津市長の渡辺芳邦氏
鳥獣害対策が難しいとされる原因の1つが、猟友会の高齢化だ。100キロを超えることもあるイノシシを撃ち、運んで処理するには体力が追いつかない。さらに、そもそも猟友会の存在自体、狩猟を趣味とする人の集まりであり、鳥獣害対策はボランティアとして行われている。高齢化と相まって、あまり無理を押しつけられない状況にある。
そこで木更津市とNTT東日本は、ICTを使ってイノシシの罠猟にかかる手間を大幅に削減し、猟師の負担を軽減するとともに効率的な狩猟を目指した実証実験にとりかかったというわけだ。
プロジェクトには木更津市とNTT東日本のほかに、実証実験の場を提供した農家や木更津猟友会のメンバー、木更津工業高等専門学校(以下、木更津高専)の学生、獣肉加工やジビエレストランを手がけるKurkku(クルック)といった面々が並んだ。
産官学の各プレイヤーが力を合わせて取り組む共同実証実験
実証実験の場を提供したのは、無農薬農業に力を入れている農家の山野晃弘氏。実際にイノシシ被害に頭を悩ませている農家のひとりだ。
山野氏によれば、イノシシが少しでも荒らした区画の米には獣のにおいがついてしまうので、収穫して他の米と混ぜるわけにはいかない。1反まるごと諦めるしかなく、その被害額は20万円以上にもなる。イノシシが一度通り、一部を荒らしただけで20万円以上の損害が出るのだから、たまったものではない。