――「IoTのOKI」を目指すという情報通信事業本部の中期経営計画(以下、中計)を、昨年5月に打ち出してから1年が経ちました。
坪井 私どもは元々、社会インフラを構築されている公共・民間のお客様にソリューションを提供してきました。また、「IoT」という言葉が登場する以前から、公共向けを中心にセンシング技術、金融系を中心にデータ処理技術、創業時からの事業である通信ネットワークと、IoTの考え方で事業に取り組んできたわけです。そこで情報通信事業本部では「社会インフラ×IoT」を2019年度までの中計の軸に定め、「IoTのOKIと言われるくらいになろう」という目標を立てました。
――その目標に向かって、OKIはこの1年間、数多くのIoT関連の発表を行ってきました。「IoTのOKI」というイメージもだいぶ浸透してきた印象があります。
坪井 そうですね。「OKIは情報発信が弱い」と指摘されていたこともあり、情報発信にしっかり取り組もうと、お客様のシステムを請け負うだけではなく、自社企画型の商品にも力を入れてきました。
――昨年度に出したIoT関連の新商品をいくつか紹介していただけますか。
坪井 例えば、ネットワーク型超音波水位計があります。河川内に機器を設置することなく河川の上から水位を測れるセンサーで、河川が氾濫しても流されることがありません。また、サブGHz帯の省電力マルチホップ無線と太陽光パネルを組み合わせることで、完全にワイヤレス化できるので、工事費や維持管理費を大幅に削減できます。センサー系では他にも、光ファイバーセンサーやマルチビーム測深機などを昨年度に商品化しました。
IoTでは映像が重要なカギを握ると考えていますが、映像IoTゲートウェイの「AISION」もリリースしました。映像データを最大約1/10に圧縮できる機能と、顔認識や車両認識などの画像センシング機能を融合させたエッジコンピューターです。画像センシングとAI・アナリティクス技術により、レジの混雑予測などが行える店舗業務改善支援ソリューション「VisIoT」も販売開始しました。
中計で「最重点」領域に設定した交通関連では、車両プローブ情報を活用した民間向けITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)サービス「LocoMobi2.0」があります。また、人手不足が大きな問題となっていますが、AI対話エンジンを搭載し、銀行などで無人窓口応対を実現できるAIアシスト端末なども発表しています。
――以前と比べると、新商品のリリース数は格段に増えたのですか。
坪井 まったく違いますね。もちろん突然、商品を出せるわけではないので、技術の素養は十分にあったのです。ただ今までは個別にお客様に紹介するだけで、商品化は行わないケースが結構ありました。
なぜかというと、超音波水位計だけを単に発表しても、多くのお客様にとっては「よく分からないね」となるからです。しかし、例えばマルチホップ無線などと組み合わせ、「社会インフラの課題解決に寄与するIoTソリューションです」と説明すると、「なるほどね」となります。社会インフラ×IoTという軸を作ったことで、商品化しやすくなりました。
49社とIoTで共創中――IoT時代を迎えて、OKIが蓄積してきた技術資産を、今まで以上に活かせるようになったということですか。
坪井 まさにそうです。でなければ、この短期間にこれだけの数の新商品は出せません。
次々にIoT関連の新商品を投入できた大きな理由としては、私どもの企業規模も挙げられます。OKIぐらいのサイズの企業が、IoTでは一番有利なポジションにあると思っているのです。
IoTでは総合力が重要ですが、組織が大きくなると、どうしても縦割りの部分が出てきます。しかし、OKIくらいの企業規模だと、1つの組織でIoTに取り組めます。他方、OKIよりも小規模の企業の場合、今度は研究開発に十分な投資ができません。
――OKIは2016年4月に情報、通信、公共の3つの本部を情報通信事業本部に統合しています。
坪井 手前味噌になりますが、OKIには優れた技術が数多くあります。情報・通信・公共を1つの組織に融合したことで、様々な事業部の優れた技術をクロスさせた商品開発を加速させることができました。先ほど紹介した商品の中にも、複数の事業部にまたがって開発したものがいくつもあります。
――「クロスセル」も進んだのではないですか。
坪井 IoTアプリケーション推進部という部門横断のSE部隊を中心に、いろいろなお客様に水平展開できるようになりました。これは反省ですが、OKIは大変良いお客様をたくさん持っているのに、今までは活かしきれていませんでした。以前は金融のお客様には金融のソリューションしか紹介しないといったケースが多かったわけです。
しかし今は違います。様々なお客様にOKIの社会インフラ×IoTの取り組みを紹介しており、デジタルトランスフォーメーションへの関心が非常に高いこともあって、「一緒にPoC(コンセプト実証)をやろう」といった共創の話が数多く進んでいます。
私どもは1年前に①交通、②建設/インフラ・防災、③医療、④金融・流通、⑤製造の5つの注力領域を掲げましたが、例えば交通ではNEXCO東日本様や丸紅様、建設/インフラ・防災では住友林業様、大日本コンサルタント様、飛鳥建設様など、現時点で49社とIoTの共創中です。
収益面についても、情報通信事業本部は昨年度、いろいろと投資を行いながらも、計画通りの135億円の営業利益を確保することができました。