――5Gに向けた取り組みが、世界的に加速してきました。
グランリド そうですね。グローバルでは2025年に5Gへの接続数が12億になる見込みです。また、日本では2025年にトータル接続の45%が5Gになると予測されています。つまり、5Gは「実現する」ということです。
――順調に進展しているわけですね。
グランリド 技術面ではそうです。しかしその一方で、ビジネス面について見ると、課題がないわけではありません。5Gは普及しますが、儲かるビジネスモデルはまだ明確に描き切れていないのです。
投資規模が莫大である点も懸念しています。5000億ドルもの設備投資が必要と言われています。ですから規制当局は、モバイル事業者が積極的に投資できるようにするための環境づくりを行い、イノベーションを活性化させるという重要な役割を果たす必要があります。
また、自動車メーカーや電力会社、ヘルスケア企業などにも対応していく必要があり、かつてより複雑なビジネスモデルになる怖れもあるでしょう。
――5Gのビジネスモデルは今から作り出していくのですね。
グランリド そうです。ただ、こうした課題はあっても、モバイル事業者は「新しいチャンスがある」とポジティブに考えています。
4Gのときを思い出してください。このときも「3Gで十分ではないか」などと言われ、当初なかなかビジネスモデルを描けませんでしたが、最終的には成功しました。5Gも同じような旅路を辿ると思っています。
もちろんテクノロジーとして見たときには、5Gは4Gとはまったくの別物です。AIやビッグデータなどにより、5Gではインテリジェントな接続が可能になり、モバイル事業者の状況は一変すると思います。
例えば、VRや360°ビデオストリーミング、アバター、今のIoTよりも大規模なマッシブIoTなどが、5Gで実現するでしょう。
――ところで5Gに先行して、IoT向けにはNB-IoTなどのセルラーLPWAの提供が始まっていますね。
グランリド すでに世界で70のモバイル事業者がサポートしており、莫大な数のデバイスがセルラーLPWAにつながっていくでしょう。LPWAの規格はいろいろありますが、スケールの問題もあり、セルラーLPWAを打ち負かすことはできません。セルラーLPWAの未来は明るいと考えています。
モバイルで持続可能な社会を――GSMAは毎年バルセロナで世界最大のモバイル展示会「モバイルワールドコングレス」を開催していますが、今年は国連が推進する「SDGs」(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が大きなテーマになりました。モバイル業界は、SDGsにどんな貢献ができるのでしょうか。
GSMAが開発したSDGsに関する
モバイルアプリ「SDGs in Action」
グランリド 様々な貢献ができると考えています。今、世界には約54億人のモバイルユーザーがおり、これは世界の人口の3分の2にあたります。これほど多くの人をつなげているということは、いろいろな形でSDGsに役立てるということです。
――「貧困をなくそう」「すべての人に福祉と健康を」など、SDGsでは17の大きな目標を掲げていますが、具体的にどんな取り組みが行われているのですか。
グランリド 例えばSDGsの目標の1つに、「ジェンダー平等を実現しよう」があります。モバイルにアクセス可能な女性の人口は、男性よりも2億人少ないのが現状です。我々は50:50の状況が望ましいと考えており、その実現のうえで何か障壁があるのであれば、それに対処していくという取り組みを行っています。
「質の高い教育をみんなに」という目標に関しては、「mSchools」という取り組みをスペインで展開しています。10~17歳の子供たちが、実際に会社を作ったりしながら、モバイルアプリを開発したりするものです。デジタル革命には、子供たちも含まれなければなりません。
また、スイス・アルプスでは、「気候変動に具体的な対策を」という目標実現のため、モバイル事業者が観測の支援を行っています。
「貧困をなくそう」という目標に対しては、東アフリカや南アジアなどで利用されているモバイルマネーが貢献しています。モバイルマネーを利用すると、モバイル端末で仕事の報酬を受け取ったり、食料品の支払いを行うことなどができます。現在、モバイルマネーのアカウントは6億9000万に達しており、1日当たりの決済額は10億ドルに及びます。このモバイルマネーは、貧困にあえぐ人々が利益を得て、貧困から脱却していくうえで、本当に助けとなるものです。