「いままでのビジネスモデル、業界内で当たり前だったルールが、わりと簡単に壊れていく。そうした変化はすでに出てきており、今後さまざまな業界で起こっていくだろう」――。10月8日に開催された「M2M/IoTカンファレンス」(主催:リックテレコム)の基調講演に登壇した三菱総合研究所 企業・経営部門 統括室 事業推進グループ 主任研究員の大川真史氏は、IoTがもたらす変化についてそう切り出した。
三菱総合研究所 企業・経営部門 統括室 事業推進グループ 主任研究員の大川真史氏
さまざまなモノやヒトがインターネットにつながることで新たな価値を創造するIoTは公共インフラや製造業、流通・小売、サービス業など、今やあらゆる業界において、これを戦略的に活用しようとする取り組みが始まっている。
ポイントは「ユーザーの使い様」がわかること
では、IoTによってもたらされる変化とは一体、どのようなものか。よく言われるのが業務の効率化だ。例えば製造業において、生産ラインの状況をリアルタイムに可視化したり、機器制御の自動化等が行えるようになることで生産効率を高めるといったアプローチである。
だが、大川氏は「IoTの本質的な価値は、そうした『いまやっていることの効率が良くなる』という話ではまったくない」とする。それよりも、「ユーザー側のことがわかるようになる、ということを起点としたイノベーションが可能になるのがIoTの本質的に新しい価値だ」という。つまり、IoTによって起こる変化は大きく2つあり、1つが「従来業務の効率化」、そして、それよりも重要なのが「ユーザー起点による新たな価値創造」だ(写真1)。
【写真1】IoTが生み出す価値
ユーザー起点の新たな価値創造とは、具体的にどういうことか。大川氏は、従来型のビジネスのスタイルとの違いを、製品やサービスを提供する企業と、そのユーザーとの関係の変化を軸に説明する(写真2)。キーポイントは、企業が「ユーザーの使い様」を理解できるようになるという点だ。企業はこれまで、商品やサービスを自分達の想定した範囲内でユーザーが使ってくれるという前提で価値を提供してきた。しかし、IoTによって、想定外の使い方やユーザーの本当の使い様が企業から見えるようになる。「企業は、それにどう対応すべきかを真剣に考えなくてはならなくなる」のだ。
【写真2】ユーザー起点の新たな価値創造
これによって、新製品やサービス開発の起点は、よりユーザー側に近づかざるを得なくなる。従来、イノベーションを生み出すのはR&D部門など、もっぱら企業の深部に存在する人たちだった。だが、「IoTになると、お客様が自社の商品をどう使っているのかをよく知る人、フィールドエンジニアや営業がイノベーションの起点になる」。つまり、ものづくり中心の考え方では太刀打ち出来ない世界がやってくるのだ。この「ものづくりから価値提供」への変革を実現できるかどうかが、IoTの最も難しいところだと大川氏は指摘する(写真3)。
【写真3】ものづくりから価値提供への変革