「AIデータセンターの時刻同期は、GPUクラスター内の“計算の同期”と、データセンター全体の“運用の同期”を分けて考える必要があります」
丸文 アントレプレナ事業本部 イーリスカンパニー 測位タイミング課 主任の尾形ケネス氏は、AIインフラに必要な時刻同期をこう整理する。
AI学習や推論では、多数のGPUサーバーを用いた並列処理を行う。一部の処理が遅れると他のノードに待機時間が生じ、クラスター全体の効率が下がる。そこで重要になるのが、各GPUやサーバーのタスク開始や次の処理へ移るタイミングを共通時刻で揃える「計算の同期」だ。用途によってはナノ秒級、将来的にはさらに厳しい同期精度が求められる可能性がある。
もう1つの「運用の同期」は、スイッチ、NIC、サーバー、アプリケーションなどの共通時刻での管理だ。ログやテレメトリーの時刻がずれていると、実際にはスイッチの遅延が先に起きていても、記録上はサーバー障害が原因に見えることがある。信頼できる共通時刻があってこそ、イベントの前後関係を復元し、障害や輻輳の原因を正しく追え、セキュリティ監査やSLAに必要な時系列も再現可能になる。AIデータセンターを正しく「見る」ための可観測性は、すべての機器が同じ時間軸を共有することが出発点になる。
丸文は、米マイクロチップ社の時刻同期製品や、英カルネックス社の同期測定器、米キーサイト社のGNSSシミュレーターを取り扱う。各社の製品を組み合わせ、要件整理から検証、導入、運用まで国内顧客を技術支援する。

(右から)丸文 アントレプレナ事業本部 イーリスカンパニー 測位タイミング課 主任 尾形ケネス氏、同課 シニアアソシエイト 横塚慎太郎氏、同課 シニアアソシエイト 川浪大明氏、同課 アソシエイト 法貴隆太朗氏
用途でNTPとPTPを使い分け 必要な精度を必要な領域へ
必要な同期精度は用途によって異なる。ログの時刻合わせなどデータセンター全体の運用にはNTP(Network Time Protocol)を使い、GPUクラスターなど高精度が必要な範囲にはPTP(Precision Time Protocol)を適用する。両者の併用は、コストを抑えながら必要な精度を確保する選択肢になる。
PTPで各ノードの処理タイミングを揃え、GPUの待機時間を減らすことができれば、AI学習の処理時間を短縮できる可能性がある。「同じ処理をより少ないGPUサーバーで実行できれば、導入費用や消費電力を抑えられる可能性があります。調達に時間がかかるGPUを追加する負担も軽減できます」と、同課 シニアアソシエイトの川浪大明氏は話す。
丸文がデータセンター事業者や通信事業者に提案するのは、PTPを用いたGPUクラスターおよびデータセンターネットワーク向けの時刻同期基盤だ。ただし、効率化の効果は構成や処理内容によって異なるため、顧客とPoCを行って確かめる方針だ。
PTPの必要性の高まりは、国際標準化の議論にも表れている。ITU-Tが2025年10月に発行した「G Suppl.92」は、機器の適合要件を定める規格ではなく、データセンターに必要な同期精度の目安を、分散データベースは5マイクロ秒、複数ノードの性能分析は1マイクロ秒、輻輳制御は200ナノ秒などと整理した補足文書だ。PTPは、こうしたマイクロ秒からナノ秒級の精度をネットワーク全体で実現する手段として想定されている。
AIの学習・推論でも、複数のGPUやサーバーにまたがる処理の開始時刻やデータの受け渡し、処理遅延を同じ時間軸で把握するため、用途によってはサブマイクロ秒からナノ秒級の同期精度が検討対象になる。データセンター向けPTPプロファイル「G.FTS-Lite」の策定も進む。通信事業者向けの「G.8275.1」を簡素化し、AIデータセンターへPTPを導入しやすくする狙いだ。











