
ガートナー バイスプレジデント アナリスト ダン・ウィルソン氏
——AI時代を迎えた今、企業はデジタル・ワークプレース(デジタル仕事環境)をどう変革していくべきですか。
ウィルソン 新しい技術が次々と登場する中、多くの企業では、デジタル・ワークプレースへの取り組みが日々のIT運用にとどまっているのが現状です。従業員向けIT環境を担う情報システム部門は、障害対応や端末管理、ライセンス付与に追われる「運用中心」の状態から抜け出せていません。
もちろん、まずPCのメモリ不足や老朽化、アプリの動作不良など、日常業務を妨げる問題を解消し、必要なツールを支障なく使える環境を整える必要はあります。例えば、コロナ禍に急いで整備したリモートワーク環境は導入から5年を経て、技術的負債になりつつあります。こうした問題が残ったままAIによる業務変革を提案しても、従業員の信頼は得られません。
ただし、IT環境の安定はあくまで前提です。生成AIのライセンスを付与しただけで導入が完了するわけでもありません。従業員が日々の業務でAIを使い、その結果、業務プロセスが改善されて初めて価値が生まれます。
そのために必要なのが「統合された運営モデル」です。IT部門と人事、事業部門が共通の目標、評価指標、意思決定ルールを持ち、導入後の活用と改善まで連携して進める体制です。
ガートナーの調査でも、こうした部門横断の体制を持つ組織ほど、デジタル・ワークプレースを安定運用にとどめず、新しい働き方や業務変革につなげられている傾向が示されています。
AIエージェントに「行動の上限」を
——AIエージェントへの期待が高まっていますが、注意すべき点はありますか。
ウィルソン 私は約40のAIコワーキング・エージェント製品を調べていますが、企業での本格利用に耐えると判断できるのは5製品程度です。
エージェントはユーザーのIDを使ってOSや業務システムを操作するので、問題が起きた際、人間とエージェントのどちらが実行したか判別できなければなりません。しかし多くの製品は、ポリシーの一元管理や行動ログ、コンプライアンス対応に必要な可視性が十分ではありません。これが大きな課題です。
OpenAIのAIエージェントがセキュリティ評価中に隔離環境の制約を回避し、Hugging Faceなど外部のシステムへ侵入した事案は、そのリスクを象徴しています。悪意からではなく、与えられたタスクを達成しようとして想定外の手段を選んだのです。
——企業はこうしたリスクを管理すべきですか。
ウィルソン アイデンティティ、セキュリティ、データ、アプリの担当者を集め、全体戦略を作る必要があります。どのタスクを任せ、どこから人間が判断するのかを定め、実行できる処理やアクセス可能なデータに上限を設けます。導入後も行動ログと業務成果を検証し、権限や運用ルールを見直します。
費用対効果の確認も欠かせません。大量の演算資源を使うエージェントで受信トレイを整理することが合理的とは限りません。業務価値がコストとリスクを上回るかで判断すべきです。AIの利用料と従業員教育などの変革管理コストがのしかかり、コスト削減を目的に導入したはずのAIが、ITコストを押し上げるパラドックスが起きています。
——AIエージェント同士の連携が進むと、デジタル・ワークプレースはどう変わりますか。
ウィルソン 利用者が個々の業務アプリを意識しない「ヘッドレス・アプリケーション」が増えるでしょう。例えば営業担当者があるエージェントに出張手配を頼むと、予約や経費精算を担う別のエージェントと連携して処理を完了します。複数のシステムへ順番にログインする必要がなくなります。









