「6Gでは、ベストエフォート型から品質保証型に移行し、よりミッションクリティカルな用途に使われていくと想定されています。そのため、5Gまでの『不具合を探して潰す』という対応では問題になります」
アンリツ 通信計測カンパニー モバイルソリューション事業部 ソリューションマーケティング部 課長の倉光康太氏はこう語る。様々な環境下でのデバイス性能をより正確に計測し、あらかじめ問題を解決しておくことが、6Gが目指す品質保証型ネットワークの前提となる。
そこでアンリツでは、モバイル端末フィールド試験ソリューション「FST(Field Simulation Test)」を提供している。同部 主任の澤田啓介氏は「エンドユーザーの体感スループットを定量的に比較可能にすることがテーマの製品です」と説明する。
FSTは、電波の収録、解析、再生という一連の流れを統合したソリューションだ。ハードウェアで実環境の電波を収録し、伝搬特性を解析。その結果をテスターを用いてラボ環境で再生するという構成を取る。

(左から)アンリツ 通信計測カンパニー モバイルソリューション事業部 ソリューションマーケティング部 課長 倉光康太氏、
主任 澤田啓介氏
実環境の電波を“録って”ラボで再現・比較する
FSTが解決しようとしているのは、フィールド試験が抱える根本的な課題だ。天候、人の多さ、自動車の走行状況などの要因によって実環境は常に変動する。そのため、ある時点・地点で起きた事象を完全に再現することは極めて難しい。「端末・チップベンダーにとっては自社と他社の製品の性能を定量的に比較できず、大きな問題となっています」と澤田氏。
従来、各MNOの電波環境を計測する方法としては、複数台のスマートフォンをPCに接続し、スループットを見ながら街中を歩き回るのが一般的だった。手間がかかる上、一時的な環境変化によるものか端末やチップに由来するものかの切り分けも難しく、「大量にデータを取って、平均値を提示するのにとどまっていました」(倉光氏)。
実環境の電波伝搬をラボで再現する「Field to Labo」という考え方自体は古く、倉光氏によれば、2008年ごろには市場で求められていたという。スマートフォンの登場により通信方式や無線環境が急速に複雑化し、実フィールドで発生する問題をラボで再現・検証したいというニーズが顕在化したことが、Field to Laboという考え方が注目される背景にあった。当時、アンリツを含む各テストベンダーは、基地局シミュレーターと通信ログを活用することでField to Laboの実現を目指したが、通信ログだけでは実環境における電波環境の課題を十分に特定・再現することは難しく、顧客の期待に応える製品には至らなかった。「顧客目線では、Field to Laboは長らく“実現していない”状態が続いていました」と倉光氏は振り返る。
そこでアンリツは、「基地局からスマホへの電波の届き方を再生する」というアプローチを採用し、FSTを開発した。FSTの構成で大きなカギになるのが信号をキャプチャするハードウェア、ユニバーサルRFユニット「MD8190A」だ。本機にはスマホ同様に4本のアンテナが搭載されており、4G/5Gの下りデータをIQデータ(無線信号を同相成分・直交成分で表した生データ)として収録する。4本のアンテナを備えることで、複数アンテナ間の信号の相関関係を取得できる。

FSTの構成例。写真は可搬型で、ノートPCの下の筐体がユニバーサルRFユニット「MD8190A」。右上の黒い筐体は外部アンテナ
データの解析にもアンリツのノウハウが詰め込まれている。伝搬特性や各種パラメーターの時間変動はグラフで可視化し、ラボでの再生対象を直感的に指定できる。また、電波伝搬モデルの作成も主要機能だが、FSTではさらに踏み込んだ解析も可能だ。暗号キーをスマホから取得することで、ユーザーごとに割り当てられたデータチャネルを復号化し、SINRの悪化やリソースブロックの割り当てなど、電波品質に関わる指標を客観的に観測できる。「データチャネルの解析はアンリツの特徴であり優位性です」と倉光氏。

FSTで収録した電波の伝搬特性解析の例。グラフ上段が解析した伝搬遅延プロファイル、下段がスループットの時間変動を表す
暗号キーの抽出自体はチップセットベンダーや端末ログ解析ベンダーが提供するツールを利用して行う。現在クアルコムのチップセット解析ツール「QXDM」に対応しており、今後はメリテックやアキュバーなど他社の解析ツールにも対応を広げる予定だ。
再生は5Gテスターとして広く利用されている5Gシグナリングテスタ「MT8000A」にオプションを加えて行う。解析結果に実環境で生じるマルチパスや特定周波数の捕捉しづらさを含むフェージングモデルを加えてシミュレーションする。これにより、電波環境を固定した反復試験が容易になり、機種やファームウェアのバージョン、電池残量などの端末の条件を変えながら、体感スループットの比較が可能になる。
FSTは可搬型と車載型の2種類を用意し、フィールド試験のニーズに対応する。可搬型はMD8190Aをバックパックに収める。制御用PCとモバイルバッテリーを含めた最小構成は約6kgと軽量で、様々な場所に機動的に展開し、多様なフィールドデータを手軽に蓄積できる。
車載型は大容量ストレージPCを搭載し、キャリアアグリゲーションによる複数バンドを長時間リアルタイムに保存するための構成。高速道路や市街地を走行しながらの連続収録も可能で、移動環境における電波伝搬の実態を効率よく記録できることが特徴だ。
キャリアだけ・チップだけの比較でカタログにない「実力」がわかる
FSTの具体的な用例を見ていこう。
まず、同一地点でのキャリアごとの電波状況の比較だ。大型イベントの例では、会場敷地に設置されたシェアリング基地局の電波を収録。端末の諸条件を揃えた上でキャリアのみを変えたシミュレーションを実施し、「キャリアの実力値」を客観的かつ簡便に比較できる。
チップセットの比較も可能だ。アンリツが実際、野外イベント会場やターミナル駅周辺、高速道路のパーキングエリアなど様々な場所で収録し、チップセットのみを変えてシミュレーションを行ったところ、同じ場所でもスループットに違いが見られた。「端末メーカーはチップセットを選ぶとき、カタログスペックとの違いを知る方法がありませんでした。FSTを活用することで、チップの真の実力を知ることができます」と倉光氏は述べる。
アンテナ試験も有力なユースケースだ。大きさや形態の異なるアンテナを単一のシステムで検証できるため、スループットのABテストも容易になる。電波伝搬データと照らし合わせながら繰り返し検証でき、アンテナ開発の効率化に貢献する。
アンリツがこの先に見据えるのが、5Gまでのカタログスペック重視から6Gでのユーザー体感品質重視への変化だ。「ミッションクリティカルな業務に6Gを用いるには、体感品質を事前に把握することが不可欠です」と澤田氏は話し、FSTを用いた計測の必要性を強調する。さらに、実環境を高度に模擬したラボで新製品の開発を行えることから、6Gデバイスの市場投入スピードを速めることも期待される。
また、6Gでは地上波とNTNの融合が前提とされている。FSTでNTNの受信状況を収録し、シミュレーションによって端末側のアルゴリズム改善を行うことで、現状では困難な屋内や走行中の車内でのNTN接続につながるという。
来るべき6G時代、アンリツの正確なシミュレーションが通信を支える。
ワイヤレスジャパン×WTP 2026で最新無線技術の評価ソリューションを展示
アンリツは、2026年5月27日〜29日に東京ビッグサイトで開催される「ワイヤレスジャパン×WTP 2026」に出展する。
同社のブースでは、6Gを見据えたFR3/NTN、RedCap、Wi-Fi 6E/7など、最新無線規格に対応した通信品質評価ソリューションを紹介。今回紹介したFSTによる測定ソリューションをはじめ、Wi-Fi 7評価、アクティブデバイス評価、無線設備保守向け統合測定器など、多彩なソリューションを展示予定だ。
さらに、同社のブースに加え、協業展示を通じても最先端の無線評価技術を幅広く紹介する。「XGモバイル推進フォーラム」ブースでは、6Gに向けた高精度な屋内電波伝搬シミュレーション技術を、「スペースICT推進フォーラム」ブースでは、衛星通信回線における通信品質評価ソリューションを展示予定。次世代無線技術の研究開発や品質評価に携わる通信事業者、機器メーカー、研究機関にとって、最新の測定・解析ソリューションを実機で体感できる貴重な機会となりそうだ。
【ワイヤレスジャパン×WTP 2026出展】
2026年5月27日 (水) ~ 29日 (金)
・アンリツ ブース小間番号:W-70
・XGモバイル推進フォーラム(XGMF)共同ブース小間番号:W-13
・スペースICTフォーラム 共同ブース小間番号:W-3
【関連情報】
アンリツ株式会社 ブースのご案内(PDF)
アンリツ、ワイヤレスジャパン×WTP 2026に出展
アンリツ、6Gを見据えた電波伝播シミュレーション技術の高精度化検証をドコモと連携し開始
<お問い合わせ先>
アンリツ株式会社
通信計測営業本部 第1営業推進部
TEL:0120-133-099
E-mail:SJPost@zy.anritsu.co.jp











