電池レスで自律的に動作する「アンビエントIoT」への関心が高まっている。米調査会社のABI Researchによると、2030年にはグローバルで11億台のアンビエントIoT機器が出荷される見通しだ。
アンビエントIoTに明確な定義はないものの、例えば3GPPは、「バッテリーレス・超低電力デバイスを大量接続する新しいIoT方式」と位置づけている。電波や光、熱などの環境エネルギーを利用して稼働するため、外部電源やバッテリーに依存しない運用が可能になると期待されている。
なかでも、バッテリーレスで動作する仕組みとして広く実用化されているのが、RFIDだ。例えばユニクロでは、ほぼすべての商品にRFタグを貼り付けており、セルフレジに商品を置くだけで価格などを一括で読み取ることができる。
こうしたRFタグは、電池を内蔵しないパッシブ型で、電波を発信するための送信機なども持たない。では、なぜパッシブ型タグは電池なしで通信が可能なのか。これに使われている技術の1つが「バックスキャッタ(後方散乱)通信」で、アンビエントIoTの進化にも大きく関係している。
電力はBluetoothの「1/1000」
バックスキャッタ通信とは、他の機器から送られてきた電波を受信し、その反射波に情報を載せる技術である。RFタグの場合、質問機(リーダー)が電波を送信してタグに給電。タグは商品IDなどの情報を反射波に載せて送り返し、リーダーが受信・復調してデータを読み取る仕組みだ(図表)。歪みや温度などを計測できるセンサー付きRFタグにも、バックスキャッタ通信が用いられている。
図表 バックスキャッタ(後方散乱)通信の基本
同技術の研究開発に取り組む慶応義塾大学(以下、慶大)大学院 政策・メディア研究科 特任教授の徳増理氏によれば、RFタグは自ら電波を発振するのではなく、電波の反射係数を変調するだけなので、必要な電力は省電力性の高いBluetoothの約1/1000 にあたる数十マイクロワット(μW)ほどに過ぎない。また、「ICチップも非常に小さく、小型かつ低コストな端末を作れる」と半導体企業のRAMXEED 設計統括部 第二設計部 部長の伊藤慎也氏は説明する。

慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授 徳増理氏

RAMXEED 設計統括部 第二設計部 部長 伊藤慎也氏
バックスキャッタ通信のユースケースとしては、構造物の点検・メンテナンスなどが挙げられる。橋梁やトンネルの壁や柱にRFタグを埋め込み、破断やひび割れが生じた場合にタグが断線する仕組みにしておけば、近くを走行する車両が発する電波を利用して反射波の変化を読み取り、車両側から異常を検知できる可能性がある。
慶大とJAXA(宇宙航空研究開発機構)は、回転翼に取り付けたセンサー付きRFタグで歪みを計測し、その情報を反射波に重ねて送信することで、回転翼の状態を把握する実証に成功。従来は、重量やサイズ、電源確保といった制約から回転翼にセンサーを搭載することが難しかったが、バックスキャッタ通信により、電池レスかつ軽量なセンサー付きRFタグを設置できるようになったという。














