エイチ・シー・ネットワークス(HCNET)は2025年10月20日、東日本旅客鉄道の研究開発セクションであるJR東日本研究開発センターと共同で実証試験を実施したことを発表した。
本試験では、鉄道環境下において、IEEE 802.11ah通信技術を用いたセンサーデータを回収する通信インフラの可能性について確認。今後のスマート鉄道インフラの実現に向けた実用化検討に必要なデータを取得したという。
現在、鉄道分野においては、設備の遠隔監視やCBM(Condition Based Maintenance:状態基準保全)による保守管理の効率化が求められており、各系統で多様なセンサーを開発。データ回収方法はLTE通信に依存する場合が多く、通信費やセンサー価格の高騰により、十分な費用対効果が得られないことが課題となっているという。
そのため、全系統で共通利用可能なセンサーデータの通信インフラ構築を目指し、JR東日本と共同で、その回収手法と実証による基礎検証を実施。センサーデータを収集する無線インフラとしてIEEE 802.11ahを採用し、異なる2つの鉄道路線において通信性能を評価した。
鉄道沿線の各基地局間からのデータ伝送 日光線
鉄道沿線の拠点基地局からデータを回収する手法では、日光線内で実施した。走行中の列車からデータを回収する手法では、在来線用試験車両「MUE-Train」を用い、川越線内で実施した。
IEEE 802.11ah対応無線機としては、フルノシステムズ社製アクセスポイント(920MHz帯)を使用。アンテナは、標準利得1dBiの「標準アンテナ」に加え、広域通信が期待できる高利得アンテナとして、利得8dBiの「パッチアンテナ」、利得5dBiの「コリニアアンテナ」を使用した。
鉄道沿線の各基地局間からのデータ伝送 実際の写真
試験の結果として、基地局同士の接続試験では、パッチアンテナ利用時に最大865mの通信接続を確認。また、見通しの良好な環境下では、パッチアンテナ・コリニアアンテナともに高い受信感度を記録した。長距離接続時や伝送区間中の遮蔽物がある場合には受信感度の低下がみられたものの、今後の設置計画やアンテナ構成の設計に有用な実用データを取得しているという。
走行列車と基地局間によるデータ伝送 川越線
走行列車との接続試験では、見通しの良い区間にて最長615mの距離で基地局との通信接続を確認。接続時の列車速度は48km/hであり、通信接続が維持された最高速度は91km/hだった。これにより、実環境下での接続可能な距離と速度の目安となるデータを取得することができたという。
今後は、本結果を鉄道環境や都市インフラへのIEEE802.11ah通信の適用拡大に向けて、追加検証およびシステム提案を行っていく計画。また、高利得アンテナの活用やエリア最適化を通じて、効率的なIoTインフラの構築を推進し、スマート社会の実現に貢献していくとしている。