英語で通信事業者を「Telco」と呼ぶが、世界中のTelcoは「Techco」そして「Servco」への変革を迫られている──。コマーチ・ジャパン カントリーマネージャーのウカシュ・ゼズラク氏はそう話す。
コマーチ・ジャパン カントリーマネージャー ウカシュ・ゼズラク氏
TechcoとはTecnology companyを指す。従来のITインフラを拡張させ、大量のデータを活用するAI/MLのインフラを持つ「テクノロジー企業」だ。
対して、ServcoはService companyを意味する。そのAI/MLインフラを活用して、ユーザーにサービスを提供する「サービス企業」の顔だ。
ゼズラク氏によれば、世界中の通信事業者がこの変革に挑戦し始めており、日本の通信事業者が取り組む変革のゴールもこうした言葉で表せるという。
ポーランドを本拠とするコマーチは、通信、金融、医療など、世界中の幅広い業界に向けてITソリューションを提供する。日本では通信事業者向けのOSS/BSSソリューションに注力。国内大手通信事業者に提供した5G SAシステムを管理するOSSは、2024年の「Asian Telecom Awards」で「Technology Innovation of the Year」を受賞するなど、国際的にも高い評価を受けている。
コマーチが目指すのは、通信事業者のTechco/Servcoへのシフトを、AIによって実現させることだ。
「Telco（通信事業）からTechco（テクノロジー企業）へのシフトにあたり、AIの活用を含め貢献していきたい」とビジネス開発マネージャーの下稲葉健児氏は語る。ネットワーク運用や障害監視、顧客管理など、通信分野の業務をAIにより自動化・省力化し、新しいサービスやビジネスに割り当てるリソースを増やすことで、通信事業者間はもとより、異業種の企業との競争にも勝ち抜いていけるというのだ。
コマーチ・ジャパン ビジネス開発マネージャー 下稲葉健児氏
痛いところに手が届く 個別のAI機能が変革を支援
コマーチは、OSS/BSSの各機能に対し、それぞれに特化したAIを提供している（図表1）。このアプローチにより、ユーザー企業は“痛いところ”に手が届くAI機能を最低限の学習期間とコストで導入可能だ。
図表1 各AI機能とモジュールのマッピング
その1つ、「傾向予測」は、監視対象の時系列データをAIモデルで学習し、将来の動作を予測するものだ。数百種類にも及ぶデータに対して正規化やフィルタリングなどの前処理を実行してから予測を行うことで精度を高め、異常予測や容量管理に特に効果を発揮する。
また、「イベント関連付け・根本原因アナライザー」は、多数のアラームをAIがクラスタリングと相関ルールに基づきグループ化し、根本原因を自動抽出。トラブルチケットを大きく削減し、後工程を効率化する。
「レコメンドエンジン」は、異常検知のデータから、問題を解決するためのアクションをレコメンドする機能。経験の少ない若手エンジニアであっても、少ない工数で正しい解決策に到達できる。
そして、さらに、「予兆検知」機能がこれらに加わる。目視では関連を見いだせない異常の症状（symptom）の流れから異常の予兆をリアルタイム検知し、重大な故障につながり得る事象を早期に発見できるという。
もちろん生成AIの活用も進んでいる。OSS/BSSに搭載された対話型のAIエージェントに操作方法を尋ねれば、マニュアルを参照せずとも適切な回答が得られる。
加えて、ネットワークオーケストレーションへの適用に力を入れる。ある装置を運用するためのスクリプトが必要になった場合、従来はOSS上に人手で書く必要があったが、AIとの対話で自動生成する機能を開発中だ。Senior Telco Consultantの小出泰雄氏は、「OSSに熟練した担当者でなければ難しかった操作が、AIエージェントを通じて非常に簡単に習得できるようになります」と話し、業務効率化と人材不足対策への貢献を確信する。
