KDDI総合研究所 小西副所長「つなぐチカラを2方向で進化 オールジャパンで“光”支える」

『「つなぐチカラ」を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる。』──。2030年に向けて、こんなビジョンを掲げるKDDI。そのために必要な先端技術や新しいライフスタイルの創造に挑んでいるのがKDDI総合研究所だ。5Gの“教訓”を踏まえた6Gの進化、オールフォトニックネットワークへの意気込みなど、KDDI総合研究所の小西副所長に「つなぐチカラ」の今後について聞いた

KDDI総合研究所 取締役執行役員 副所長 先端技術研究所長 兼 KDDI 技術統括本部 技術戦略本部 副本部長 小西聡氏

KDDI総合研究所 取締役執行役員副所長 先端技術研究所長 兼
KDDI 技術統括本部 技術戦略本部 副本部長 小西聡氏

――KDDIは『「つなぐチカラ」を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる。』というパーパス「KDDI VISION 2030」を掲げていますが、2030年を見据えた先端技術と新しいライフスタイルを創る役割を担っているのがKDDI総合研究所です。

小西 KDDIは2022年7月に大きな通信障害を起こし、非常に多くのお客様に多大なご迷惑をおかけしました。そのときに改めて思ったのは、通信はいろいろなところで使われているということです。弊社の社長である髙橋誠が「あらゆるものに通信が溶け込む」と言っている通り、まさしく空気のように常に通信を提供できるように、「つなぐチカラ」をさらに進化させなければいけません。

この点については、大きく2つの方向で進化させる必要があると考えています。1つは通信容量です。総務省の統計によると、モバイルトラフィックは年率約30%で増加しており、単純計算では3年間で2倍以上になる計算です。ビルや道路、水道管のような社会インフラを3年で倍増させることを想像していただくと温度感が伝わり易いかもしれませんが、これは決して容易ではない仕事です。新しい周波数や仮想化技術など、ありとあらゆる手段を用いて、達成しなければならない“使命”です。

もう1つは、「どうもつながりにくい」「つながっているけど通信速度がイマイチ」といった不快感をなくしていくことです。特に今後は法人向けサービスが伸び、ロボットやドローンのみならず、将来は空飛ぶクルマなども含めてスムーズに通信できる環境も提供しなければなりません。他の通信事業者との差別化を図るには、スループットや遅延時間など、その時々で求められている通信要件を満たしている時間率や場所率を高めていくことが必要です。

ダイナミック周波数共用がカギ

――そこで重要な役割を果たすのが5Gです。ただ、事前の期待が高まり過ぎたこともあって、まだ期待通りとは言えません。

小西 10月31日~11月2日に開催された「Brooklyn 6G Summit」という国際会議にパネリストとして参加したのですが、「5Gの成否を今、ディスカッションするのはあまりに時期尚早」というのが多くの参加者からの意見でした。期待値を高め過ぎてしまったのは、日本だけではありません。世界的に見てもギャップが生じています。

現在、5Gの課題は何かと言うと、まずはカバレッジエリアです。Sub6にしても、基地局の設置場所の確保や電波発射は容易ではありません。Sub6を含めて5G用に新たに割り当てられた周波数は、モバイル通信事業専用の周波数ではありませんので、この周波数をすでに利用している通信や放送の事業者のサービスに迷惑をかけないように、電波を弱めたり停波しなければなりません。2020年に5Gを商用化して以来、既存の事業者と様々な交渉を進めてきており、交渉の進捗に伴い、Sub6用のカバレッジエリアも拡大できると考えています。

――ミリ波については、どうですか。

小西 ミリ波は5Gを特徴づけるために必要な周波数ですが、お客様にとってはまず広いカバレッジエリアの確保が必要ですし、投資の観点でも、まずはSub6を中心に基地局を展開していくのが世界的な傾向です。韓国ではご存じの通り、通信事業者がミリ波を返上せざるを得ない状況にもなりました。

とはいえ、前述の通りトラフィックはどんどん増えますし、多様なユースケースが登場するはずですから、遅かれ早かれ、ミリ波を本格的に使っていく必要があります。単に基地局をたくさん打つのではなく、リピーターや反射板などのミリ波をうまく伝搬させる仕組みも必要です。

――ミリ波、テラヘルツ波と、高い周波数の活用により無線通信を進化させていくのが、5G商用化以前の通信業界のシナリオでした。しかし、実際にはそう簡単ではなさそうです。

小西 そうですね。そこはチャレンジですし、無線通信の技術者や専門家が世の中にインパクトを与えられる非常にやりがいのある仕事だと思っています。その一方、6Gに向けては今、5Gでのlessons learned(教訓)を踏まえて、ミリ波の前に、それよりも低い周波数の活用を目指そうという議論が活発化しています。ハイミッドバンドなどと呼ばれる、7~15GHzの周波数の活用です。

――ただ、まとまった帯域幅を更地として確保するのは難しそうです。KDDIは2023年7月から、場所や時間帯などによって1つの周波数帯を複数の事業者が使い分けるダイナミック周波数共用の運用を2.3GHz帯で開始しました。国内初です。今後はこうした技術がカギを握るのではないですか。

小西 仰る通りです。ダイナミック周波数共用の必要性はもっともっと高まってくると思っており、すでにダイナミック周波数共用を研究開発から事業まで進めてきた私たちにはアドバンテージがあります。

ダイナミック周波数共用においては、既存の事業者と同じ周波数を利用するために必要な周波数共用の仕組みを活かすために、電波の飛び具合をダイナミックに予測することが非常に大事です。このためにも、2.3GHz帯の運用で得たノウハウを活用したいと考えています。

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小西聡(こにし・さとし)氏

1993年に国際電信電話(現、KDDI)入社後、衛星通信や固定無線通信、移動無線通信に関する研究開発に従事。この間、ITU-RWP5D、3GPP、3GPP2及び電子情報通信学会で要職を歴任すると共に、KDDIでのLTE商用開発を推進。2014年からKDDIモバイルアクセス技術部長としてLTE-Advancedの開発と商用化を推進。17年からKDDI次世代ネットワーク開発部長として、5Gの実証実験や商用化を推進。20年から現職にてBeyond 5G/6Gを推進。Beyond 5G推進コンソーシアム白書分科会ビジョン作業班リーダーとして、日本のホワイトペーパーを完成させた

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