【工場DXのためのネットワーク入門】スマートファクトリーに必要な「無線」や「セキュリティ」は?

海外と比べて遅れていた日本の工場DXが、いよいよ前進し始めた。その第一歩が、Wi-Fi導入やFAネットワークの統合だ。工場特有の課題など、工場ネットワーク整備を成功させるポイントを整理した。

日本の製造業のスマートファクトリー化はどこまで進展したのか。工場DXの土台を支えるネットワークソリューションを提供するベンダーたちの見方は共通している。

「新規の工場については、スマートファクトリーを意識して構築されるケースも多い。しかし、既存工場の大半は、大手企業でもまだまだこれから」。こう話すアライドテレシスの肥野貴義氏をはじめ、ほとんどの工場ではデジタル化の取り組みはあまり進んでいないというのが大方の意見だ。

アライドテレシス 執行役員 インダストリー営業本部 本部長 肥野貴義氏

アライドテレシス 執行役員 インダストリー営業本部 本部長 肥野貴義氏

「海外と比べると、日本の取り組みは遅い。グローバル、特に北米は凄く進んでいる」とジュニパーネットワークスの有村淳矢氏は日本の出遅れを指摘する。

ジュニパーネットワークス 技術統括本部 エンタープライズアーキテクト 有村淳矢氏

ジュニパーネットワークス 技術統括本部 エンタープライズアーキテクト 有村淳矢氏

インダストリー4.0、IIoTなど、様々な言い方で、製造現場のDXの必要性が訴えられ始めてから10年以上。一部の先進工場を除き、日本の多くの製造現場では、遅々として取り組みが進んでいないのが実態だ。

2000年にはOECD加盟国の中でトップだった日本の製造業の労働生産性は、2020年には米国の6割弱へと低下し、OECDに加盟する主要35カ国中18 位まで後退している。その一因として、デジタル化の遅れがあることは疑いないだろう。

その背後には、こんな問題も横たわっている。「一番大きな課題と思っているのは、欧米と比べると、生産技術部門とIT部門の距離が遠いこと。IT部門の側から『こうしたらいいのでは』と提案する仕組みも日本にはあまりなく、どうしても受け身になりがちだ」(シスコシステムズの中河靖吉氏)

シスコシステムズ セキュリティ事業 エンタープライズ営業部長 中河靖吉氏

シスコシステムズ セキュリティ事業 エンタープライズ営業部長 中河靖吉氏

ただ、確実に変化も起きている。「自動車業界を中心に、デジタル技術を活用しようという機運は少しずつ高まっている」とシスコシステムズの中川貴博氏は言う。アライドテレシスでも工場関係の案件数はここ数年、大きく飛躍しているという。

シスコシステムズ IoT事業部 IoTセールススペシャリスト 中川貴博氏

シスコシステムズ IoT事業部 IoTセールススペシャリスト 中川貴博氏

工場DXが加速してきた要因の1つとして、タブレットやクラウドを工場内で使いたい、AGV(無人搬送車)をもっと活用したいといった現場ニーズの拡大を挙げるのはジュニパーの有村氏だ。

全社的なDX戦略、あるいはDXを推進するための経営陣のリーダーシップや組織体制は不足していても、現場のニーズに後押しされる形で、日本の工場DXは加速し始めた。

こうしたなか、IT部門やIT系SIerが貢献できることの1つが、DXのための工場ネットワーク整備である。つまり、製造現場がDXを推進しやすくするためのインフラ作りだ。

ただ、工場ネットワークには、オフィス等のネットワークとは異なる要件や課題もある。せっかく工場DXに取り組み始めたのに、ネットワークがつながりにくいせいで、躓いてしまった──。そんな事態を避けるには、工場特有の事情を把握したうえで、ネットワークの整備を進めることが必要だ。

工場内に増える無線端末 ポケトークも

オフィスや家庭では、無線を第一のアクセス手段として考える「ワイヤレスファースト」の時代に入って久しいが、工場ネットワークもワイヤレスファーストになりつつある。タブレットやAGV、IoTセンサーなど、工場で様々なデジタルデバイスを活用していくのに、無線ネットワークが欠かせないからだ。

アライドテレシスの尾形竜一氏によれば、例えばこんなデバイスのニーズも増えている。1つは無線IP電話。従来、構内PHSを使っていたり、あるいは対面でのコミュニケーションを基本としていた工場などで、導入機運が高まっているという。また、翻訳デバイスのポケトークを使いたいという声も聞くそうだ。「工場は外国人労働者が多く、また独特の専門用語が飛び交う。そうした専門用語を外国人労働者に伝えるのが難しいという課題がある」からだという。

アライドテレシス ソリューションエンジニアリング本部 東京プロジェクトマネジメント部 第4プロジェクトマネジメントグループ マネージャー 尾形竜一氏

アライドテレシス ソリューションエンジニアリング本部 東京プロジェクトマネジメント部
第4プロジェクトマネジメントグループ マネージャー 尾形竜一氏

さらに尾形氏は続ける。「しばらく期間をおいて、お客様の工場を訪問すると、また別の新しい用途で無線を使い始められていることが結構ある」。ウェアラブルデバイス、各種ロボットなど、無線デバイスのニーズは今後ますます増えていくだろう。

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