特殊詐欺の被害者の多くは高齢者。親族との大切なコミュニケーションを支える電話が犯罪に使われていることは心苦しく、なんとか対策を講じたいと考えていた――。
NTT東日本 ビジネス開発本部 第一部門 部門長の一ノ瀬勝美氏は、特殊詐欺の撲滅に向けた思いをこう述べた。
NTT東日本 ビジネス開発本部 第一部門 部門長の一ノ瀬勝美氏(左)と担当課長の丸山智宏氏
同氏によれば、2018年の被害額は383億円。「電話に出ることにも不安を感じられる」現状に、NTTグループの技術、サービスを駆使して対策に乗り出す。2019年度第2四半期中に東京都内の5つの自治体と協力して、一般家庭で実証実験を実施。その結果を踏まえて機器等を開発し、「2020年秋までに」サービスを開始する予定だ。
仕組みは次のようなものだ。
家庭で使われている電話機に、会話を録音してクラウドへ送信する「特殊詐欺対策アダプタ」を接続。電話の発着信時には会話を録音する旨を伝えるガイダンスを流したうえで、音声データをクラウド上の音声認識エンジンに転送する。
特殊詐欺解析AIを用いた実証実験のイメージ
音声認識エンジンでテキスト化された会話内容は即座に言語分析エンジンが解析。特殊詐欺でよく使われる単語や文脈等で判定を行い、疑わしい場合には本人や親族など予め登録された人に注意喚起メールを送信する。
詐欺の疑いがある場合には登録されたメールアドレスに通知が届く
同部門 担当課長の丸山智宏氏によれば「解析は、ほぼリアルタイムに行われ、電話中でも注意喚起する」。メールだけでなく、電話で判定結果を伝えることも可能だ。実際、報道機関向けに行われたデモでは、通話開始後2分ほどで携帯電話(親族が持っている想定)に対して電話がかかり、自動音声によって詐欺が疑われる旨が伝えられた。
AIの解析・判定については、「警察と連携し、特殊詐欺犯がよく使う最新の用語を使って学習させる」(丸山市)ことで精度を高める。
実証実験では、利用者および行政機関の要望を吸い上げてサービス内容に反映させるほか、アダプタ設置や設置後のアフターフォローなど運用面の確認も行う。実際にサービスを提供する際には、「予め電話帳に登録されている人との電話は録音しないようにするなど、運用面を検討していきたい」(一ノ瀬氏)考えだ。
なお、録音されたデータは利用者宅に設置するアダプタ内部に保存され、警察の捜査にも役立てられる。