TOTO、旭化成の実践アプローチ
実践教育の仕組みは3ステップだ。研修に業務を入れ込み、現場に研修を持ち込み、継続的な行動変化と組織定着につなげる。
その例として針生氏はTOTOを挙げた。
同社は事業部から選抜した人材を2年間留学させる制度を導入した。3カ月の基礎教育の後は、出身部門が抱える実践のデータ活用テーマを持ち込み、OJT形式で学ぶ。実務のデータを扱うため、研修後すぐに職場で生かせるという。
業務プロセスそのものにAIを組み込んだ例もある。旭化成は監査プロセスにAIを組み込み、1件13時間×年間1440件で1920時間の削減につなげた。
「どんな価値が生まれるか」を教育の指標に
2つ目のパーソナライズは、スキルの多様化に対する解決策だ。
具体的には、従業員ごとの利用実態の差に応じたアプローチを採る。AIをほとんど使ったことのないAグループには、まず興味とモチベーションを高めてもらう。
一方、週に1~2回以上使うBグループは扱いが異なる。エバンジェリストを育成し、ワークショップで課題を整理したうえで、効果を軸に優先順位を付ける。積極的な活用者はAI COE(Center of Excellence)として全社の推進役に据える。
ここで針生氏が重視するのは、操作の巧拙ではない。AIリテラシー向上で問われるのは「個人や組織の仕事をより良くしようとする気持ちであって、ビヘイビアなのだ」と強調した。
3つ目が仕事へのインパクト、すなわち効果測定である。針生氏は「教育をやったこと、施策そのもの、受講率を評価するのではなくて、それによって仕事でどういう価値が生まれるのかを教育の指標とする」と話した。
ライオンはAIエージェント開発の育成プログラムに、業務フローの整理や効果見積もり、開発後の効果測定までを組み込んだ。「生成AIに向いているか」「データの有無」「技術的実現可能性」「業務インパクト」の4つの観点で事前評価を行い、ビフォーアフターの定量・定性効果測定まで教育に含めている。
管理職研修の出発点は「自身が活用」
最後の論点は管理職だ。管理職には、自分の仕事を変えることに加えて、組織の仕事を変える役割がある。
その出発点となるのが、「管理職自身の活用だ」と針生氏は話した。世界の経営層や管理職は、戦略立案や市場・リスク分析、プレゼン準備といった戦略的な仕事に生成AIを使うと同時に、1 on 1ミーティングの記録・分析で部下への理解を深めるなど、人間力を高める使い方も広がっているという。効率や生産性ではなく、仕事の質と共感力を高める使い方であり、「AIは管理職という職そのもののあり方を再定義することになるだろう」と針生氏は展望した。
管理職向けに特化したプログラムも具体化してきている。
現場のコンテキスト、価値の説明、モチベーション管理という3つの要素を管理職研修に組み込んだのがレノボの事例だ(図表3)。管理職支援の有無でツールの利用率は67%から91%へ、週当たりの平均削減時間は1.8時間から3.5時間へと変わり、AIに対する現場ビジネス部門の満足度は88%に達した。
図表3 「管理職への特化支援」がもたらすAI定着への影響

針生氏が最後に強調したのは、これからの管理職の役割がAIの推進と育成、つまり「AIの環境づくり」に変わるという点だ。「自分が使えることよりも、自分の部下が使えるように環境を整備すること」が、管理職の本質的役割であると指摘して講演を終えた。









