ID基盤でエージェント統制 “人間以上”の厳密管理を
ネットワークと並ぶ重要な論点が、AIエージェントを「誰の代理として、何にアクセスできるのか」を統制するID管理だ。同本部 応用技術部 クラウドアプリケーションチーム エキスパートの渥美淳一氏は、想定外の動作や権限の濫用を防ぐためには「AIエージェントの存在の把握は当たり前」と指摘し、「APIやトークン管理が本来の『AIエージェント管理』です」と続ける。
AIエージェントを非人間アイデンティティ(Non-Human Identity:NHI)として識別するだけでは十分ではない。どのAIエージェントがどこで動き、どのAPIやサービスに接続し、どのような権限を持つのかまで把握する必要がある。利用するトークンや接続先ごとの権限も含め、管理対象は多岐にわたり、「管理は人手ではとても無理」(渥美氏)だ。
そこで重要な役割を担うのがID基盤だ。人間のIDを一元管理するだけでなく、AIエージェントを登録し、誰の代理としてどのMCP/APIに接続できるかを管理する。さらに、接続先ごとの権限をポリシーとして統制し、認可によってアクセスを制御できる(図表2)。
図表2 ID基盤によるAIエージェントの管理とガバナンス

課題になるのが、管理者の知らないところで作られる「シャドーAIエージェント」だ。渥美氏は「正規に作成したAIエージェントを管理対象として登録し、それ以外を発見できる仕組みが必要です」と話す。例えば、ブラウザ拡張機能で同意操作を検知したり、SASEやEDRから利用情報を収集するなどして、管理外のAIエージェントを把握し、ID基盤による統制につなげる方法が考えられるという。
慎重な権限設計も欠かせない。例えば、全社員のスケジュールを閲覧できる権限があっても、人間が実際に全員分を常時確認することは困難だ。しかしAIエージェントなら、その権限を24時間365日、高速かつ広範囲に行使できる。同じ権限でも、人間よりリスクは大きくなることから、ID基盤で用途ごとに権限を細分化し、必要最小限に絞ることが必要だ。
「自律性」が変える対策の前提 システム可視性向上が基本
こうしたIDと権限の統制に加え、外部からの攻撃を防ぐ従来型の対策と、AIエージェントの振る舞いや外部への通信の監視・制御を組み合わせたセキュリティ対策も不可欠だ。
同チーム エキスパートの松尾咲季氏は、AIエージェントの「自律性」を対策の前提として強調する。自ら計画し行動するため、セキュリティリスクの大きさは生成AIと「全然違う」という。
松尾氏が最も警戒するのは、機密情報の漏洩だ。例えばコーディングエージェントでは、クラウドのアクセスキーなどの認証情報が漏れ、別のシステムへ被害が拡大する事例が発生している。外部サービスへのアクセス自体は正規の利用でも発生するため、不正なデータ持ち出しとの判別も難しい。
対策の基本は「システム全体の可視性を高めること」だ。どこにどのようなデータがあり、どういった通信が発生しているのかに加え、AIの入出力、ツールの呼び出し、実行主体と権限までを関連付けて把握する必要がある。
ファイアウォールやSASE、DSPM(データセキュリティポスチャ管理)など既存の対策は引き続き有効だが、「AI特有のリスクは既存ツールでは防ぎきれません」と松尾氏は警鐘を鳴らす。典型例が間接的プロンプトインジェクションだ。メールや文書、DBなどAIエージェントが参照する外部データに不正指示を埋め込み、AIエージェントのツール連携やAPI操作を通じて機密情報を外部送信させる「EchoLeak」のような手口があり、正規の権限に基づく処理に見える場合もあるため、AIの入出力や処理文脈まで踏まえた異常判断が必要だ。
そこで注目されるのがAIゲートウェイやLLMプロキシだ。アプリケーションとLLMの間に設け、ガードレールと組み合わせることで、やり取りを可視化・検証し、必要に応じて遮断できる。
セキュリティベンダーは、AIゲートウェイにMCP/エージェントゲートウェイやアイデンティティセキュリティを組み合わせ、AIの入出力からツール利用、IDまで一体的に可視化・保護する方向へ動いている(図表3)が、1つの製品ですべてを解決できる段階にはない。松尾氏は、ゼロトラストや多層防御を基本としながら技術検証を進め、顧客に適した対策を見極めていく考えだ。
図表3 AIセキュリティ製品の統合構想

AIエージェントをどこで、何のために使うのか。どのようなネットワークが必要で、誰にどの権限を与え、どう守るのか。その組み合わせに唯一の正解はない。だからこそ、ネットワーク、ID、セキュリティを個別に考えるのではなく、目的から逆算し、「AIエージェント視点でアーキテクチャを再設計していく」(松尾氏)ことが求められる。ネットワンシステムズの“匠”たちは、顧客とともにその答えを探っていく。
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