アップリンク改善はダウンリンクほど単純ではない
通信事業者には今後、アップリンクを多用するモバイルサービス/アプリケーションのさらなる普及を見越して、「アップリンクの性能強化」が求められることになろう。
ただし、アップリンクの改善は、ダウンリンクのそれほど簡単ではない。
鹿島氏によれば、ダウンリンクは基地局側が大きな出力で送信する仕組みだが、アップリンクは端末側の送信電力に制約があるため、そもそも性能を引き上げにくい構造にある。現状のモバイルネットワークはダウンリンク中心のユーザー体験向上に最適化されてきた経緯があり、基地局から遠いセルエッジに位置するユーザーが体験するアップリンクスループットは非常に低い水準にとどまっている。

アップリンク性能の現状(赤)とあるべき性能(緑)、将来需要(青)
4Gや5G NSA(Non Standalone)に比べてアップリンクを改善している5G SA(Standalone)への移行や、アップリンク最適化のためのプライマリーセル選択といった技術で一定の改善は見込めるものの、AI起因の需要増を織り込むと、なお大きなギャップが残るとの分析が示された。この課題は、6Gの標準化議論でも重要テーマの1つとして扱われているという。
打ち手はSA移行とキャリアアグリゲーション
対応策として鹿島氏が挙げたのが、SAへの早期移行と、FDD帯域とミッドバンドを組み合わせたキャリアアグリゲーションの活用だ。
5G SAでは、アップリンクへのMIMO導入や、送信データを端末側で圧縮することで大容量データ転送を行う「アップリンクデータ圧縮(UDC)」といった技術を導入している。また、ダウンリンクはミッドバンドで、アップリンクは電波の届きやすいFDD帯域で送るといった柔軟な運用により、パフォーマンスを引き上げられるという。
スマートフォンやホームルーター等のデバイスの送信出力を高めたHPUE(High Power User Equipment)の活用も有効だ。特に、基地局から距離が遠いセルエッジにおいてアップリンク通信の安定性や速度の向上が見込める。
もっとも、通信事業者にとってはネットワーク増強への投資がきちんと収益化されるかどうかも重要な論点となる。鹿島氏は「アップリンクに投資しても、その分の収益化が見えるかどうかは大きな課題」と述べ、海外で見られるAIサービスと通信をセットにした課金モデルなど、収益化の枠組みづくりが今後の焦点になるとの見方を示した。
また、「AIの普及でアップリンクが増加する」という単純な図式ではなく、AIエージェント間やロボット間の通信のようにダウンリンクも同時に伸びる用途も想定される点にも注意を促した。
AIの普及によってネットワークの負荷構造そのものが変わりつつある中、アップリンク性能の底上げは今後のモバイルネットワーク設計における重要な論点となりそうだ。












