O-RANの「階層AI」も取り込む
ネットワーク設計へのAIの統合においてもう1つ重要なポイントは、階層的なAI構造が採用される点だ。
基地局等の各ノードが自律的に判断し最適化する「ノードレベルのAI」と、交通管制のようにRAN全体や6Gシステム全体を俯瞰して最適化する「セントラライズなAI」の両方が必要と考えられている。これには、RANのオープン化を推進してきたO-RAN Allianceの議論と技術成果が活かされていると鹿島氏は話す。
O-RANのアーキテクチャでは、RANを管理・制御する「SMO(サービス管理・オーケストレーション)」上で動作する「rApp」が、AIや機械学習を活用して、RANの最適化や省電力化を行う。3GPPとO-RANは協力関係にあり、「これらのアーキテクチャは、3GPPによる6G標準化にも取り入れられている」(同氏)。特定ベンダーに依存しないオープンな議論の成果が、6G標準仕様に反映される流れができてきている。
このように、6GアーキテクチャはAIを前提に作られていくが、実装や能力そのものが標準化されるわけではないことに注意が必要だ。城田氏によれば、「標準化で規定されるのは、インターオペラビリティが必要な項目のみで、入出力とプロトコルが対象だ。ネットワーク内にコンピューティング能力をどう構築するか、どのようなAIアルゴリズムを使って判断するかは、ベンダーと通信事業者の実装に委ねられる」。
“AIのために”第1要件は上り増強
AIを設計に組み込む6Gは、単にコネクティビティを提供するインフラではなくなり、「コネクティビティとコンピューティングが融合したICTプラットフォーム」(鹿島氏)へと変貌する。言い換えれば、AIやコンピューティングのためのプラットフォームを構築することが、6Gの最大の目的と言える。
そこでフォーカスが当たるのがNetwork for AI——AIのためのネットワークとしての要件を獲得することだ。
まず考慮すべきが、「AIの導入によってトラフィックパターンが変化し、特にアップリンク(UL)の需要が増加する」(城田氏)ことだ。
従来のモバイルアプリはダウンリンク(DL)中心のデータ消費だったが、生成AIやAIエージェントは、リアルタイム推論のために、ユーザーの文脈情報を継続的に取得する必要がある。モバイルネットワークにおける一般的なトラフィック分布はDL対ULが90対10と大きく偏っているが、エリクソンの調査によれば、AIトラフィックでは74:26となっている。これは2024年時点での調査であり、その後、ULの比率はさらに上がっていてもおかしくない。
UL需要の増加で象徴的なのが、スマートグラスのAR処理だ。ユーザーの周辺情報をAIへ届けるには、テキストよりも音声や画像・映像の方が効率的であり、最近発表されたモデルの動画解像度をベースとすると、スマートグラス利用中は約1.5Mbps程度の上り通信を常時利用するとの試算がある。
短中期的にはスマートフォンとこのAIスマートグラスがULトラフィック増を牽引。長期的には自動運転車やヒューマノイドロボットの本格展開に伴ってさらに加速すると考えられる。
こうしたUL需要の増大は6Gを待たずとも5G時代から顕在化するため、これに対処するための技術開発も進んでいる。KDDIは今年第1四半期に同社の4G/5Gネットワーク上で、エリクソンと共同でAIによるUL最適化のフィールドトライアルを実施。4Gでは平均9.6%、5Gでは平均3.1%の改善が見られ、両方でスループットが向上し、5GのSINR(通信品質の指標)が27%改善した。
一方、6Gに向けた新技術開発も進む。クアルコムが注力するのが、Massive MIMOでは最大数百だったアンテナ素子数を数千に増強してビームフォーミングの精度を高めるGiga-MIMOと、SBFD(SubBand Full Duplex、サブバンド全二重)である。Giga-MIMOは高速大容量化とカバレッジ拡張に貢献。一方のSBFDは図表のように、1つのTDDキャリアをULとDLのサブバンドに分割することで同時通信を可能にする技術だ。上り通信のカバレッジ拡張や低遅延化につながるという。










