フィールドレベルに拡張
OPC UAはこれまで、主に「縦方向」、すなわち生産現場のOT系システムと上位のIT系システムを接続する用途で利用されてきた。これに加えて近年は、「現場間の水平方向の通信も増えてきている」(戸井永氏)。コントローラー同士やコントローラーと生産機器の間など、フィールドレベルの機器間通信にもOPC UAを適用する取り組みが進んでおり、そのための拡張仕様が「OPC UA FX(Field eXchange)」である(図表4)。
図表4 OPC UAの適用範囲とOPC UA FX
フィールドレベルの相互接続では、より厳しいリアルタイム性や低遅延性が求められる。そこでOPC UA FXでは、イーサネット上で時間制御を可能にするTSN(Time-Sensitive Networking)と組み合わせることで、ミリ秒単位の制御通信への適用も目指している。
さらに将来的には、無線ネットワークとの連携も進め、5G通信や衛星通信を介した運用も視野に入れている。こうした拡張を通じ、OPC UAを適用する産業分野をより広げようとしている。
普及には通信側も対応を
OPC UAを現場に導入するには、設備側でOPC UA対応のコントローラーやPLC、産業用機器を採用する形が一般的だ。これらの機器にはOPC UAサーバー機能が実装されており、温度や稼働状態、アラーム情報などの設備データを上位システムに公開できる。OPC協議会に参加するベンダーの中にも、OPC UA対応の産業用コントローラーなどを展開する企業がある。ゲートウェイPCを介さずに上位システムへ接続し、変数を選ぶだけで設備データを公開できる製品もあり、対応製品は増えつつある。
他方、既存設備をそのまま活用したい場合には、ゲートウェイやエッジを追加して対応させる方法や、SCADA、MES、クラウドなど上位システム側で連携基盤を整える方法もある。
ただ、OPC UAのポテンシャルを最大限活かすには、設備側の実装だけでは足りない。OPC UA自体は特定の通信プロトコルや物理媒体に依存しない設計だが、工場内のOT機器から外部のクラウドやIT系システムへデータを届けるまでの経路には、プロトコル変換やセキュリティ確保、接続設定といった実務的なハードルが残る。現状では、この部分を利用者側が個別に構築しなければならないケースも少なくない。

日本OPC協議会 境野哲氏(NTTドコモビジネス エバンジェリスト)
同協議会の境野哲氏は、「特定ベンダー専用のネットワークにならないよう、IT系とOT系の双方で共通に利用できるネットワーク環境を整備する必要がある」と指摘する。具体的には、通信事業者や通信機器ベンダーが、OPC UAのデータを受け渡せるゲートウェイ機能やクラウド接続サービスを標準的に提供することが求められる。海外では、大手クラウドベンダーを中心にこうした方向のサービスの整備が進みつつあるという。
加えて、ネットワークの帯域確保も課題となる。OPC UAが扱うのは単なる数値ではなく、意味や属性を伴ったリッチな情報であり、相応の帯域が必要になるためだ。また、工場には機微なデータが多く、データ主権の確保も重要な論点になる。グローバルなクラウド基盤だけに依存するのではなく、国内でデータを完結して管理できる基盤という選択肢も要求される。
そこで要となるのがエッジだ。製造現場では生産設備から膨大なデータが得られるが、それをすべてクラウドに送るのは効率・コストの両面で現実的ではない。エッジでデータを選別・集約したうえで必要な情報だけを上位に渡すことが、OPC UAを活用したシステム設計では重要になる。エッジは同時に、内部と外部の境界として機能する「セキュリティの要所」(遠藤氏)でもある。
「スマートフォンがTCP/IPに対応したように、様々な機器やサービスがOPC UAに対応していく必要がある」と戸井永氏。OPC UAという共通言語の上で、より多くの機器やサービスが接続できる環境を広げていくことが普及には不可欠だ。国内では、OPC UAを使いこなせるユーザーや技術者が限られており、それが諸外国に比べた普及の遅れにつながっているという。同協議会ではOPC UA対応機器の相互運用テストの実施や最新動向の紹介などを通じ、普及活動に力を入れている。
日本の産業におけるデータ活用を一歩先に進めるには、機器、通信基盤、そして人材の各層に、OPC UAを浸透させることが欠かせない。













