「早く病気を見つけることができました。ありがとうございました」。ある日、若い女性から感謝のメールがドコモ・ヘルスケアのコールセンターに届いた。この女性は、同社が2013年6月に開始した女性向け健康情報サービス「カラダのキモチ」の利用者だ。

カラダのキモチは、スマートフォンを経由して会員の基礎体温などの健康に関連するデータを収集し、ドコモ・ヘルスケアのクラウド基盤に蓄積、分析によってアドバイスを行うサービスである。体の変調を検知すると、会員のスマホを通じて医療機関での診察も促す。冒頭のメールを送ってきた女性は、その勧めに従って早期に病気を発見することができたのだ。

このサービスには、受診するとお見舞い金を得ることができる補償制度も盛り込まれている。それでいて月額の利用料金はわずか300円（税別、以下同）。1年足らずの期間で会員は40万人を超えたという。カラダのキモチは多くの女性の支持を得ている。

女性向け健康情報サービス「カラダのキモチ」のアプリ画面（左）と、育児をしている母親向けのスマホアプリ「予防接種スケジューラー」

健康であり続ける仕組みを追求

ドコモ・ヘルスケアは、NTTドコモとオムロン ヘルスケアの出資によって誕生した会社だ。ドコモはスマホとネットワークを持ち、オムロンは体温計や血圧計など体の健康状態をセンシングする機器を製造。両社が組み、IoT（Internet of Things）ビジネスを展開している。

同社のミッションは「単に体温や血圧を計るだけでなく、人々が健康であり続けることができる仕組みをつくること」と竹林一社長は話す。その仕組みを実現するのが「WM（わたしムーヴ）」と名付けられたプラットフォーム事業だ。

ドコモ・ヘルスケア 代表取締役社長の竹林一氏

図表は、同社の健康サービスの構造と流れを示したものだ。このプラットフォーム事業は、（1）データを収集する測定機器（レイヤ1）、（2）データの蓄積・分析、予測を行う基盤とWMポータルサイト（レイヤ2）、（3）WMポータルサイトを通じて提供するアプリ/サービス（レイヤ3）、そして、（4）アライアンス企業が提供する健康に関する付加価値（レイヤ3）の4点で構成される。

図表　ドコモ・ヘルスケアのWMプラットフォーム事業の仕組み

人が健康であり続けるためのライフスタイルを提案するという同社の目的を実現するための起点は、血圧計や体重体組成計、婦人体温計などの測定機器だ。これらのセンサーデバイスが身体のデータを収集し、そのデータをスマートフォンに近距離無線（NFC、Bluetooth等）で送信。さらに、スマートフォン内のアプリがWM（わたしムーヴ）に送る。

会員数は現在、有料会員と無料会員を合わせて計85万人ほどに達している。WM（わたしムーヴ）は、送信されてくる血圧や体重、体温などのビッグデータを蓄積・分析・予測する機能を担う。このクラウド基盤に盛り込んだアルゴリズムによって、会員の健康状態に異変が生じている可能性をキャッチすると、前述のように医療機関での受診を勧める。

このように、単に会員の健康状態をモニタリングするだけでなく、健康につながる具体的な行動へと促す仕組みを持つことが同社のサービスの最大の価値だといえよう。血圧や体温の数値を見ても、一般の人がそこから意味を読み取ることは難しい。本人に代わってWMがデータの意味を読み取り、適切なアドバイスを行う。ドコモ・ヘルスケアは、医師や薬局をはじめ健康に関する専門的知識を持つプロフェッショナルや組織と連携することで、それを実現している。

好例が「予防接種スケジューラー」というアプリだ。

育児をしている母親向けのスマホアプリ特集で定番的に取り上げられるこの無料アプリは、赤ちゃんの予防接種スケジュールの管理をサポートするものだ。アプリの提供主体は、小児科医がメンバーとなっているNPO法人「VPDを知って、子どもを守ろうの会」。2011年11月に配信を開始して以降、2014年4月現在で総ダウンロード数は約25万と、ヒットアプリになっている。