量子コンピューターの進展によって、現在広く使われている暗号技術が将来的に解読されてしまう可能性が指摘されている。こうした脅威に備えるには、量子コンピューターでも解読が困難な耐量子計算機暗号(PQC)への移行に加え、暗号化の基盤となる「鍵」が盗まれないようにする多層的な防御が不可欠だ。
この鍵を安全に共有する技術として期待が大きいのが、量子暗号通信だ。これは、量子力学の原理を利用して鍵を配送する「量子鍵配送」(QKD)と、使い捨ての鍵で暗号化・復号する「ワンタイムパッド」という2つの要素技術で構成されている。
QKDでは、光子(光の粒子)1個に1ビットの鍵情報をのせて伝送する(図表1)。光子は物理的に分割できないため、盗聴者が途中で光子を抜き取ると、受信側に届く光子の数が減少する。また、光子を盗み見て元に戻したとしても、光子は観測すると状態が変化するという特性により、受信時に盗聴されたことを検知できる。
図表1 量子暗号通信の仕組み

ワンタイムパッドでは、送信するメッセージと同じサイズの鍵を事前に共有し、その鍵を用いてメッセージの暗号化・復号を行う。鍵は一度しか使わず、次のメッセージには新しい鍵を用いるため、万が一鍵が流出しても、その影響は極めて限定的で、他の通信には一切影響しない。このように、QKDとワンタイムパッドの組み合わせにより、理論上は盗聴不可能な通信ネットワークが実現する。
各国で政府主導の実証進む
量子暗号通信の実証で世界をリードしているのが中国だ。2017年には、世界初となるQKDネットワークを開通。北京・済南・合肥・上海の4都市を結ぶ全長2000km超の通信網で、150以上の企業・自治体が利用している。
韓国では、SK Broadbandが2022年に48の政府機関を接続する全長800km規模のQKDネットワークの実証を実施。欧州でも2022年から量子通信インフラ構築プロジェクト「EuroQCI」がスタートし、2030年までにEU27カ国を相互接続するQKDネットワークの実現を目指している。
2025年に入り、QKDに関する報道はさほど多くないが、日本総合研究所(以下、日本総研) 先端技術ラボ シニアエキスパートの金子雄介氏によれば、「特に中国では、未公表のものも含めて多くのQKDネットワークの実証・整備が進んでいるだろう」。












