ケーススタディ【筑波サーキット】通信システムをフルIP化、一斉通報にソフトフォンも活用

コース内の監視ポストと管制塔を結ぶ通信システムをフルIP化した筑波サーキット。ソフトフォンを活用した一斉指令システムの新規導入などにより、指揮命令・情報伝達の効率化に成功した。

どこまでも続くかのような田園風景が広がる茨城県下妻市。その南西の端、常総市と八千代市との境付近に筑波サーキットはある。

鈴鹿サーキット、富士スピードウェイに次いで3番目に古い歴史を持つこのサーキットは、全日本ロードレース選手権をはじめとする数々のレースイベントを開催するほか、コースのコンパクトさと、複雑なコーナーが連続するテクニカルなレイアウトで、プロだけでなく多くのアマチュアレーサーをも魅了。設立後約40年にわたりモータースポーツファンの支持を集めてきた。レースや走行会などのイベントが開催される週末はもちろん、ウィークデイも、練習走行をする会員や、マイカーでサーキット走行を楽しむ家族連れなどで賑わう。

ドライバーを守る電話網

サーキットに集まるドライバーの目的、技量、そして車両の性能は千差万別だが、レースを安全かつ円滑に運営し、また“素人”にも安心して走行を楽しんでもらうためには、コース内の安全確保が欠かせない。その任に当たるのが、メインコース内に計11カ所設置されたコーナーポストと、そこで働く監視員、そして彼らを指揮する中央管制室である。

監視員は常にコースの状況を見張り、トラブルや事故の発生時にはコントロールタワー内の中央管制室へ連絡。重大な事故が発生すれば、現場で適切な処置を行う傍ら、救護の要請を行う。また、中央の指揮の下、“旗”により走行中のドライバーに注意を促したり、時には走行中断の指示も伝えなければならない。

情報を素早く集め、対応を判断し、各ポストにそれを伝達する。筑波サーキットではこれまで4つのシステムを併用し、この体制を維持してきた。内線電話網と、各ポストと管制室を結ぶ直通電話網、複数ポストに同時に指令を発する一斉通報システムと一斉放送システムである。

車両性能の進化、利用客の増加と嗜好の多様化に合わせて増強を繰り返してきたこれらのシステムも長年の使用で老朽化した。また、さらなる信頼性の向上、情報伝達の効率化も求められるようになった。そこで、サーキットを運営する(財)日本オートスポーツセンターは通信インフラの全面更改の検討を開始した。

安全のために「変えない」

言うまでもなく、一般的なオフィスとサーキットでは、環境はまったく異なる。業務第一課の濱野浩課長代理は複数ベンダーの提案を比較検討。中でも重視したのは次の点だ。

「使い方が従来と大きく変われば、事故が起こった際の対応に支障が出る恐れがある。だから、その使い方をここで実際に見てもらい、使い勝手と信頼性を保ったうえで効率性を高める新しいアイデアも求めた」

(財)日本オートスポーツセンター・業務第一課・課長代理の濱野浩氏
(財)日本オートスポーツセンター・業務第一課・課長代理の濱野浩氏

筑波サーキットでは平常時、30名程度のスタッフが従事する。これがレース開催時には、プロモーターが増強する要員で100名超に膨れ上がる。レース毎に設備を使う人も変わるため、従来のやり方を継続しつつ機能を高めることが重要だった。

もう1つ、工事スタッフの柔軟性と対応力も重視した。これも、サーキットの特殊性を鑑みれば頷けるものである。例えばこんな具合だ。

「通常ならば路面図を見て、這わせやすい場所にケーブルを敷設すればいいと考える。だが、サーキットでは、たとえクルマがクラッシュしても安全なようにマージンを取らなければならない。また、電話機の設置についても、エンジンの爆音の中でも聞き取りやすい場所や向きがある。我々が持つそうしたノウハウを現場で逐一伝えながら、柔軟に対応してもらう必要があった」

こうした要件の下、日本コムシスは、従来は個別運用されていた内線電話、直通電話、一斉通報の機能を統合しSIPサーバー「comsip」で実現するとともに、一斉放送システムも含めて同一ネットワーク上で運用する新システムを提案した。「将来的にはレース映像、ラップタイムやリザルトデータなどを場内のお客様に配信するサービスにも、このネットワークが活用できる。そうした将来性も決め手」(濱野氏)となり、採用が決まった。

月刊テレコミュニケーション2009年11月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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