「キャリアが土管化を回避する方法」 日本アルカテル・ルーセント社長インタビュー

グーグルに代表される“オーバー・ザ・トップ”と呼ばれるサービスプロバイダーに通信キャリアはどう対抗すべきか。マーティン・ジョーディ社長は「ネットワークのユニークさを活かすことで、共存モデルが可能になる」と話す。

――通信キャリアの課題をどのように捉えていますか。

ジョーディ 爆発的に増加するトラフィックにどのように対処するのかが第1の課題です。次々と機器を追加していく従来のやり方ではなく、アーキテクチャを抜本的に変えるような対策が必要です。

2番目に、ネットワークの「土管化」を回避することも大きなテーマです。洗練されたサービス、アプリケーションを持った“オーバー・ザ・トップ(OTT)”と呼ばれるプレイヤーにも対抗しなければなりません。3つ目の課題として、グリーン化があります。トラフィックの急増に対応する一方で、ネットワークの消費電力量を抑制する必要があります。アルカテル・ルーセントは特にこの3点にフォーカスして、「High Leverage Network(ハイレバレッジネットワーク:HLN)」というコンセプトを掲げています。

――HLNとはどのようなものですか。

ジョーディ 通信キャリアはサービスごとに複数のネットワークを運用・管理しています。それらを、非常にスケーラブルで、かつインテリジェンスを備えた1つの統合ネットワークにまとめ、ビット当たりの単価を最小化しようという発想です。

IPルーターや光伝送装置をはじめとする我々の製品の多くは、キャリア網での利用を前提に設計されています。拡張性や伝送性能の高さはもちろん、QoSやノンストップルーティング、ディープパケットインスペクションといった、キャリアクラスのアプリケーション運用に求められる機能を備えています。こうした製品群を組み合わせることで、網内にインテリジェンスを組み込むことができます。

また、ビット当たりの消費電力を大幅に削減する新世代のチップセットの開発など、グリーン化に向けた取り組みもHLNの要素の1つです。

新たなエコシステムを作る

――コスト効率を高めてトラフィックの急増に対応する一方、「土管化」を避けるためには新たな収益モデルを確立しなければなりません。

ジョーディ ネットワークが持っているユニークな機能とインテリジェンスが、通信キャリアに新たな収益をもたらします。ネットワークには元来、ユニークな機能があります。網内に多くのデータを保存できますし、課金機能も備えています。また、ユーザーのプロファイルやコンテキストに応じたサービスを提供できることも、ネットワークのユニークさの1つです。

そのほか、位置情報やセキュリティなども含め、通信キャリアが持っているこうした機能や情報を、アプリケーション/コンテンツプロバイダー(ACP)に使ってもらって、そこから新たな収益モデルを作るための仕組みを構築する。HLNのコンセプトの中で、我々はそうした取り組みも進めようとしています。ACPとネットワークを結びつけるこの仕組みを「アプリケーションイネーブルメント(AE)」と呼んでいます。

――AEによって、OTTとの共存モデルを作ろうということですね。

ジョーディ そうです。ACPがネットワークの機能を活用するためのAPIを導入することで、両者を結び付けます(図表)。これにより、大きな2つの効果が得られます。


図表 High Leverage Networkとアプリケーション実行基盤
図表 High Leverage Networkとアプリケーション実行基盤

1つは、ネットワークが持つ情報や機能をACPが安全に秩序だった方法で活用できることです。ACPを通信キャリアのビジネスに取り込み、エンドユーザーに向けて安全でリッチなサービスを提供できます。

通信キャリアがこうした枠組みを持てば、ネットワーク固有の機能を使って差別化されたアプリを提供するACPとの間でレベニューシェアが可能になるでしょう。これがもう1つの効果です。すでに米国では、AEの実装を進めているキャリアがあり、国内でも提案を行っています。

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